寸法(mm)と人の動きから、間取りの「ちょうどいい」を決める。一級建築士の視点で、実施設計の考え方をまとめたシリーズです。
結論:浴室の事故は、滑る・跨ぐ・温度差の3つの危険が重なって起きます。どれも、設計の段階で減らすことができます。
- 高齢者の自宅での転倒事故は、場所別で浴室・脱衣所が最も多い(消費者庁)
- 家庭の浴槽での高齢者の溺死は2019年に4,900人。交通事故の死者数を上回っている
- 浴槽の縁は、洗い場から40cm前後の高さが跨ぎやすいとされる
- 滑りにくい床・手すり・暖かい脱衣室が、事故を減らす基本
浴室は、家で一番危ない場所かもしれない
浴室は、毎日使う、くつろぎの場所です。でも同時に、家の中で事故が起きやすい場所の一つでもあります。
消費者庁が医療機関から集めた情報では、65歳以上の高齢者が自宅で転倒した事故のうち、場所がわかったものの中で浴室・脱衣所が最も多くなっていました。
そして、家庭の浴槽での高齢者の溺死は、2019年に4,900人にのぼり、2011年以降は交通事故による死亡者数を上回っています。この記事では、浴室の危険と、設計でできる対策を整理します。
浴室の3つの危険
| 危険 | 起きること | 設計でできる対策 |
|---|---|---|
| 滑る | 濡れた床、石けんで転倒 | 滑りにくい床材、水はけのよい床 |
| 跨ぐ | 浴槽の出入りでバランスを崩す | 浴槽の縁の高さ、手すり、腰かけられる場所 |
| 温度差 | 寒い脱衣室・浴室と熱いお湯で体調が急変 | 脱衣室と浴室を暖める、断熱(#22) |
床が滑りやすい
浴室の床は、水と石けんで滑りやすくなります。最近のユニットバスは、滑りにくく、水はけがよく、乾きやすい床が増えています。素足で立って確かめるのが一番確実です。
浴槽を跨ぐ動作
浴槽の出入りは、片足立ちになる不安定な動作です。特に、浴槽から出るときは、体が温まってふらつきやすくなっています。
浴槽の縁の高さも大切
浴槽の縁が高すぎると跨ぎにくく、低すぎると浴槽の中が深くなって、出入りしにくくなります。一般に、洗い場からの縁の高さは40cm前後が跨ぎやすいとされています。縁に腰かけてから足を入れられるように、腰かけられる幅のある浴槽も便利です。
手すりは、どこに付ける?
| 場所 | 役割 |
|---|---|
| 浴室の出入口 | 段差やドアを越えるときに、体を支える(縦の手すり) |
| 浴槽の横 | 浴槽を跨ぐとき、立ち上がるときに体を支える |
| 洗い場 | 椅子から立ち上がるときに体を支える |
今すぐ必要なくても、壁の中に手すり用の下地を入れておくと、必要になったときに簡単に取り付けられます。
温度差(ヒートショック)
冬、暖かい部屋から寒い脱衣室で服を脱ぎ、熱いお湯につかると、血圧が大きく変動します。浴室の事故の多くが冬(11月〜3月)に起きているのは、このためと考えられています(#22 ヒートショックを防ぐ間取り)。
住宅性能も大切
家全体の断熱性能が高いと、部屋ごとの温度差が小さくなり、脱衣室や浴室も冷えにくくなります(性能設計の教科書 #07)。
浴室の事故を減らす5つのコツ
- 滑りにくい床を選ぶ:素足で立って確かめる
- 浴槽の縁は40cm前後に:腰かけられる幅があると、さらに安心
- 手すりと下地を用意する:出入口、浴槽の横、洗い場
- 脱衣室と浴室を暖める:暖房、断熱
- 出入口の段差をなくす:つまずき防止と、将来の介助のために
浴室の打ち合わせでは、浴槽の大きさや色、機能に目が向きがちです。でも、毎日のことだからこそ、滑らない床、跨ぎやすい高さ、手すりの下地といった「安全の基本」を先に確かめてください。ショールームでは、浴槽を実際に跨いでみるのがおすすめです。
わかっていること、いないこと
| テーマ | わかっていること | 注意点 |
|---|---|---|
| 浴槽での溺死 | 家庭の浴槽での高齢者の溺死は2019年に4,900人。2011年以降、交通事故死者数を上回る | 冬に多い。持病のない人でも起きることがある |
| 自宅での転倒の場所 | 消費者庁の事故情報では、場所がわかった転倒のうち浴室・脱衣所が最も多かった | 医療機関から集めた情報で、すべての事故を網羅していない |
| 浴槽の縁の高さ | 40cm前後が跨ぎやすいとされる | 体格や身体の状態で、ちょうどいい高さは変わる |
浴室の安全を確かめる5つの質問
- □ 床は、濡れても滑りにくいか
- □ 浴槽の縁の高さは、跨ぎやすいか
- □ 手すり、または手すり用の下地があるか
- □ 冬に、脱衣室と浴室を暖められるか
- □ 出入口に段差がないか
浴室の事故のよくある質問(FAQ)
Q. 若い家族だけなら、対策はいりませんか?
小さな子どもも、浴室で転倒や溺水の事故が起きやすい年代です。また、家は何十年も住むものなので、今の対策が将来の安心につながります。
Q. 手すりは、後から付けられますか?
壁の中に下地があれば、後から簡単に付けられます。下地がない場合は、壁を補強する工事が必要になることがあります。
Q. 入浴で気をつけることは?
消費者庁は、入浴前に脱衣所や浴室を暖める、湯温は41度以下、湯につかるのは10分までを目安にする、浴槽から急に立ち上がらない、食後すぐや飲酒後の入浴を控える、といった点をすすめています。
まとめ|浴室の安全は、設計で減らせる
- 浴室は、家の中で事故が起きやすい場所の一つ
- 危険は、滑る・跨ぐ・温度差の3つ
- 滑りにくい床、跨ぎやすい浴槽、手すりの下地が基本
- 脱衣室と浴室を暖め、家全体の断熱を高める
浴室の安全は、毎日の小さな危険を、設計で一つずつ減らしていくことで守られます。家族の今と将来を思い浮かべて、浴室を見直してみてください。
おすすめ|浴室の安全性は第三者目線が効く
一級建築士・こばやんより
家づくりで後悔した、という声の多くは、間取りが確定する前に、一度も専門家と話せなかったことが原因です。
工事前なら、まだ間に合います。
▶ 建築士がすすめる、後悔しない第一歩
タウンライフ家づくり
― 営業なし・完全無料で、間取りを整理できる場所 ―
「間取りの後悔って、工事前なら防げることが多いです。
比較せずに決めるのが、一番危ない。」
― こばやん(一級建築士)
※ 完全無料・しつこい営業なし・いつでも退会OK
※ 本リンクはアフィリエイト広告を含みます
次に読む
シリーズの前の回。浴室サイズ1616は本当に正解?という話です。

シリーズの次の回。ヒートショックを防ぐ間取りです。

ライフスタイルの教科書。老後は後で考えるは危険?という話です。



コメント