寸法(mm)と人の動きから、間取りの「ちょうどいい」を決める。一級建築士の視点で、実施設計の考え方をまとめたシリーズです。
結論:ヒートショックは温度差で起きると考えられています。脱衣室と浴室を、ほかの部屋との温度差が小さい場所にすることが、設計でできる一番の対策です。
- 入浴中の急死は年間約1万9,000人という推計があり、冬に多い
- 寒い脱衣室で服を脱ぎ、熱いお湯につかると、血圧が大きく変動する
- 脱衣室は北側・外壁側・窓ありになりやすく、冷えやすい
- 脱衣室の暖房、浴室暖房、家全体の断熱で温度差を小さくする
お風呂は、命にかかわる空間でもある
冬の寒い日、暖かいリビングから脱衣室に行くと、ひやっとすることがあります。この「温度差」が、入浴中の事故に関係していると考えられています。
厚生労働省の研究では、入浴中の急死は年間約1万9,000人にのぼるという推計があります。家庭の浴槽での高齢者の溺死だけでも、2019年に4,900人と、交通事故の死者数を上回っています(#21)。そして、こうした事故は冬(11月〜3月)に多く起きています。
ヒートショックのしくみ
- 暖かい部屋から、寒い脱衣室へ移動する
- 寒さで血管が縮み、血圧が上がる
- 熱いお湯につかると、血管が広がり、血圧が下がる
- 浴槽から急に立ち上がると、さらに血圧が下がり、ふらつきや意識を失うことがある
この急な血圧の変動が、体に大きな負担をかけると考えられています。特に高齢の人や、高血圧などの持病がある人は注意が必要ですが、持病のない人でも起きることがあるとされています。
なぜ、脱衣室は寒いのか
| 寒くなりやすい理由 | 設計での対策 |
|---|---|
| 北側に配置されやすい | 暖かい部屋とつなげる配置、または暖房を |
| 外壁に面している | 壁の断熱をしっかり |
| 窓がある | 窓を小さく、または断熱性の高い窓に |
| 暖房がない | 脱衣室にも暖房を計画する |
| 廊下の先にあり、暖かい部屋から遠い | リビングや寝室の近くに水回りを |
水回りは、間取りの中で後回しにされやすく、日当たりの悪い北側にまとめられがちです。それが、冬の寒さにつながっています。
間取りで防ぐ
- 脱衣室と浴室を、暖かい部屋の近くに配置する
- 廊下を通らずに、リビングから水回りに行ける動線にする
- 脱衣室の窓は小さく、断熱性の高い窓に
- トイレも同じように寒くなりやすいので、あわせて考える
浴室暖房・脱衣室暖房
浴室暖房乾燥機があると、入浴前に浴室を暖めておけます(#25 浴室乾燥機)。脱衣室には、壁に取り付ける小型の暖房や、天井に埋め込む暖房もあります。コンセントや電源の位置を、設計の段階で決めておきましょう。
住宅性能も、とても大切
家全体の断熱性能が高いと、暖房していない脱衣室や浴室も冷えにくくなり、部屋ごとの温度差が小さくなります。窓の断熱や、家全体の断熱等級を確かめておきましょう(性能設計の教科書 #07 高断熱窓)。
入浴の仕方も大切
消費者庁は、入浴前に脱衣所や浴室を暖める、湯温は41度以下、湯につかるのは10分までを目安にする、浴槽から急に立ち上がらない、食後すぐや飲酒後の入浴を控える、といった点をすすめています。
なお、「41度・10分」の目安について、厚生労働省の研究報告では、科学的な根拠はまだ十分とはいえないとも書かれています。温度差を小さくすることと、無理のない入浴を心がけることが大切です。
ヒートショックを防ぐ5つのコツ
- 水回りを北の端に追いやらない:暖かい部屋の近くに
- 脱衣室に暖房を計画する:電源や設置場所を設計段階で
- 浴室暖房を検討する:入浴前に浴室を暖める
- 窓と断熱を確かめる:脱衣室・浴室の窓、家全体の断熱
- トイレもあわせて考える:夜中のトイレも温度差が大きい
間取りの打ち合わせでは、日当たりのいい場所はリビングに、水回りは北側に、という配置になりがちです。それ自体は合理的ですが、そのぶん脱衣室と浴室の寒さ対策を忘れないでください。冬の夜、リビングから脱衣室に移動する場面を、図面の上で想像してみてください。
わかっていること、いないこと
| テーマ | わかっていること | 注意点 |
|---|---|---|
| 入浴中の急死 | 年間約1万9,000人という推計がある | 推計であり、すべてがヒートショックによるものとは限らない |
| 冬に多い | 浴室での事故は冬に多く起きている | 地域や住宅の断熱性能によって違う |
| 41度・10分の目安 | 消費者庁が安全な入浴の目安として示している | 科学的な根拠はまだ十分とはいえない、とする研究報告もある |
ヒートショック対策を確かめる5つの質問
- □ 脱衣室と浴室は、暖かい部屋の近くにあるか
- □ 脱衣室に、暖房を置く場所と電源があるか
- □ 浴室暖房を検討したか
- □ 脱衣室・浴室の窓の断熱性能を確かめたか
- □ 家全体の断熱等級を確かめたか
ヒートショックのよくある質問(FAQ)
Q. 高断熱の家なら、暖房はいりませんか?
高断熱の家でも、冬の脱衣室や浴室はほかの部屋より低くなりがちです。断熱で温度差を小さくしたうえで、必要に応じて暖房を使うのがおすすめです。
Q. 今の家でできる対策は?
入浴前に浴室のシャワーでお湯を出して浴室を暖める、脱衣室に小型の暖房を置く、窓に断熱シートや内窓を付ける、といった方法があります。
Q. 若い家族でも気をつけるべきですか?
持病のない人でも、飲酒後や疲れているときには体調が急変することがあります。家族全員の安全のために、温度差を小さくしておくことが大切です。
まとめ|温度差をなくす設計
- 入浴中の急死は年間約1万9,000人という推計があり、冬に多い
- 寒い脱衣室と熱いお湯の温度差で、血圧が大きく変動する
- 水回りを北の端に追いやらず、暖房と断熱で温度差を小さくする
- 入浴の仕方も大切。急に立ち上がらない
ヒートショック対策は、特別な設備より、家の中の温度差を小さくすることが基本です。冬の夜の入浴を思い浮かべて、水回りの配置と暖かさを確かめてみてください。
おすすめ|ヒートショックは第三者目線が効く
一級建築士・こばやんより
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シリーズの前の回。浴室で事故が多い理由です。

シリーズの次の回。浴室の窓は必要?という話です。

性能設計の教科書。高断熱窓と家全体の断熱の話です。



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