玄関、障子、床の間、年中行事。見慣れた住まいの中にある日本文化を、古典と研究を手がかりに読み直す連載です。伝統をただ礼賛するのではなく、「なぜそうなっているのか」と「それは今も正しいのか」を、一級建築士の目で考えます。
結論:かつて家は、人が亡くなり、送られ、迎えられる場所でした。死と弔いが家の外へ移ったことで、家に求められる広さと間取りも変わりました。
- 1951年、亡くなった人の82.5%は自宅で亡くなっていた。2009年には病院が78.4%、自宅は12.4%
- かつての葬儀は、親族と近所の人々が分担して家で行った。今は葬儀場で行うのが一般的
- お盆の精霊棚は、昔は庭先や座敷に設けた。今は仏壇の前に設けることが多い
- 家で弔わなくなった今も、家には「集まる」「迎える」小さな場面が残っている
ふすまを外した座敷に祭壇が組まれ、近所の人たちが台所で料理をつくり、玄関には靴があふれている。親や祖父母の世代には、身内の葬儀を自宅で行った記憶を持つ人も少なくありません。今、身内を見送るとき、その場所はたいてい葬儀場です。
家は、かつて人が亡くなり、送られ、そしてお盆には先祖として迎えられる場所でした。それが、いつ、どのように変わったのでしょうか。第3編の最後の回は、死と弔いと住まいの関係をたどります。
家で亡くなった時代から、病院で亡くなる時代へ
厚生労働省の人口動態統計で、亡くなった場所の割合の移り変わりを見ると、変化の大きさがよくわかります。
| 年 | 病院 | 自宅 |
|---|---|---|
| 1951年 | 9.1% | 82.5% |
| 1960年 | 18.2% | 70.7% |
| 1970年 | 32.9% | 56.6% |
| 1975年 | 41.8% | 47.7% |
| 1980年 | 52.1% | 38.0% |
| 1990年 | 71.6% | 21.7% |
| 2000年 | 78.2% | 13.9% |
| 2009年 | 78.4% | 12.4% |
1951年には、亡くなった人の8割以上が自宅で亡くなっていました。1975年から1980年のあいだに病院と自宅の割合が逆転し、2009年には自宅で亡くなる人は1割あまりになっています。わずか60年ほどのあいだに、死は家の中から病院へと場所を移しました。
葬儀は、家と近所の仕事だった
『日本大百科全書』の「葬儀」の項によれば、かつての葬儀は、親族と近所の人々がほとんどすべてを分担して行いました。町内会長や村の顔役が葬儀委員長を務めることが多く、「葬式組」と呼ばれる近所の組織が、買い出し、死の知らせ、香典の受付、墓穴掘り、葬列の役割、料理の準備までを取り仕切ったといいます。
葬儀社が生まれたのは明治時代の東京で、都市を中心に葬祭業が広がっていきました。そして今は、亡くなるとすぐに納棺し、葬儀場で一連の儀式を行うのが一般的になっています。
葬儀を家で行うには、人が大勢集まれる広さと、祭壇を組める部屋と、料理をつくれる台所が必要でした。ふすまを外せば座敷と次の間がひと続きになる和室のつくり(第7話)や、家の一等地にあった座敷(第10話)は、こうした日のためにも役立っていました。
お盆|先祖を家に迎える
人を送るだけでなく、家は先祖を迎える場所でもありました。お盆には、先祖の霊を迎えるために「精霊棚(盆棚)」を設けます。位牌を置き、季節の野菜や果物を供え、ナスの牛やキュウリの馬を飾る。ナスとキュウリは、あの世とこの世を行き来する先祖の乗り物だと考えられています。
葬儀辞典の解説によれば、精霊棚は昔、仏壇を使わずに、どの家でも庭先や座敷に飾っていました。今は仏壇の前に設けることが多くなっています。第11話で見たように、お盆の棚は、常設の仏壇の前身の一つとも考えられています。棚の作り方は土地によってさまざまで、地域ごとの違いが大きい行事です。
そのまま信じなくていい|弔いと住まいの読み方
「家で看取り、家で送るのが本来の姿」ではない
自宅で亡くなる人が減ったことを、何か大切なものが失われたように語る文章もあります。けれど、病院で亡くなる人が増えたのは、医療が広く行き渡った結果でもあります。どこで最期を迎えるのがよいかは、本人と家族の状況によって違い、一つの「本来の姿」があるわけではありません。
近所で支え合う葬儀は、負担でもあった
葬式組のように近所が総出で手伝う葬儀は、支え合いの仕組みであると同時に、断ることの難しい義務でもありました。葬儀が葬儀場へ移ったのは、家族や近所の負担を減らす変化でもあったと考えられます。
建築士として読む|家で弔わない時代の、家の役割
今の家を、葬儀を行うことを前提に設計する必要はほとんどありません。それでも、死と弔いにかかわる小さな場面は、今の家にも残っています。
人が集まる日に、ひと続きにできるか
法事やお盆、正月など、親戚が集まる日は今もあります。リビングと和室、リビングとダイニングを引き戸で仕切っておけば、ふだんは分けて使い、集まる日だけ開け放ってひと続きにできます。座敷のふすまを外した昔の知恵を、今の間取りに置き換えた形です。
仏壇や遺影の前に、座れる場所があるか
仏壇を置く家では、僧侶が前に座って読経し、その後ろに家族が並びます。仏壇の前に、数人が座れる広さを確保しておくと、法事を家で行う場合も慌てずに済みます。
家で過ごす最期を、選べる家か
最期の時間を自宅で過ごしたいと考える人もいます。寝室から玄関や駐車場まで、車いすやストレッチャーが通れる幅と段差のない経路があるか。介護用のベッドを置いても周りを回れる広さがあるか。こうした備えは、看取りのためだけでなく、年をとったときの暮らしやすさにもそのままつながります。
間取りの打ち合わせで、葬儀や看取りの話をすることは多くありません。けれど、「親を家で看ることになったら」「自分が最期を家で過ごすとしたら」と一度だけ想像してみると、寝室の位置や廊下の幅、玄関の段差の考え方が変わることがあります。来客を迎える部屋の考え方は客間は今も必要かで書いています。
資料で確かめられること・言い切れないこと
- 1951年には亡くなった人の82.5%が自宅で、2009年には78.4%が病院で亡くなっている
- かつての葬儀は、親族と近所の葬式組が分担して行った
- 葬儀社は明治時代の東京で生まれ、今は葬儀場で葬儀を行うのが一般的
- お盆の精霊棚は、昔は庭先や座敷に設け、今は仏壇の前に設けることが多い
- 家で看取り、家で送ることが「本来の姿」だということ
- 近所で支え合う葬儀が、だれにとっても良いものだったということ
- お盆の迎え方が、全国で同じだということ(地域による違いが大きい)
暮らしの中で試してみたい3つのこと
- □ 親の世代に、身内の葬儀を家で行った記憶があるか聞いてみる
- □ 家族が集まる日に、家の中で何人がどこに座れるかを数えてみる
- □ 寝室から玄関まで、車いすで通れる経路があるかを確かめてみる
葬儀・お盆と住まいのよくある質問(FAQ)
Q. 昔は、どのくらいの人が自宅で亡くなっていたのですか?
厚生労働省の人口動態統計によると、1951年には亡くなった人の82.5%が自宅で亡くなっていました。1975年から1980年のあいだに病院と自宅の割合が逆転し、2009年には自宅は12.4%になっています。
Q. 葬儀はいつごろから葬儀場で行うようになったのですか?
葬儀社は明治時代に東京で生まれ、都市を中心に広がりました。かつては親族と近所の人々が家で葬儀を行うのが一般的でしたが、今は葬儀場で行うのが普通になっています。
Q. 精霊棚(盆棚)は、どこに設けるものですか?
昔は庭先や座敷に設けるのが一般的でしたが、今は仏壇の前に設けることが多くなっています。作り方や時期は地域によって違います。
Q. 今の家で、法事を行うことはできますか?
仏壇の前に僧侶と家族が座れる広さがあり、リビングと和室などを引き戸でひと続きにできれば、小規模な法事は家でも行えます。
Q. 在宅で最期を過ごすために、家で備えておくことは?
寝室から玄関や駐車場まで、車いすやストレッチャーが通れる幅と段差のない経路、介護用ベッドの周りを回れる広さがあると安心です。これは年をとってからの暮らしやすさにもつながります。
まとめ|家は、弔いの場所から、集まる場所へ
- 亡くなる場所は、約60年で自宅から病院へと大きく移った
- 葬儀は家と近所の仕事から、葬儀場で行うものへと変わった
- お盆の精霊棚は、庭先や座敷から仏壇の前へと場所を移した
- 今の家では、集まる日にひと続きにできる仕切りと、看取りにも備えた経路を考えておく
死と弔いが家の外へ移ったことで、家は少し軽くなったのかもしれません。それでも、家族が集まり、先祖を思い、だれかを見送る小さな場面は、今も家の中にあります。あなたの家には、そうした日のための場所があるでしょうか。
参考文献
- 厚生労働省「死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移」(人口動態統計)。資料を見る
- 柴崎直人・井之口章次「葬儀」『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館。かつての葬儀と葬式組、葬儀社の始まり、葬儀場への移行に用いました。コトバンクで読む
- 「精霊棚」『デジタル大辞泉』『葬儀辞典』『世界大百科事典』ほか。精霊棚の意味、設ける場所の変化、供え物と地域差に用いました。コトバンクで読む
- 赤田光男「仏壇」『世界大百科事典』平凡社。精霊棚が仏壇の前身の一つとされることに用いました(第11話参照)。
次に読む
連載第14話。第4編「季節をしつらえる」のはじまり。門松・しめ縄・鏡餅は、何を迎えるための飾りなのか。

連載第11話。お盆の棚から常設の仏壇へ。家の中の祈りの場所の歴史です。

連載第10話。冠婚葬祭の場でもあった、客間と座敷の歴史です。

連載第7話。ふすまを外せばひと続きになる、閉じきらない仕切りの話です。



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