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眠れない夜、脳では何が起きているのか|建築士が考える「悩まない寝室」のつくり方

いえのキホン
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連載|建築士の思考実験 #15

人はなぜ判断を間違えるのか。そして、どう考えれば納得できる家づくりや暮らしにつながるのか。心理学・認知科学の知見と、設計の現場で見てきたことを重ねて考える連載です。

SHEET — 眠れない夜と寝室の要点S = 1:建築士の思考実験 15 / kobayan

結論:眠れない夜が続くとき、それを長引かせているのは、出来事そのものより「眠ろうとがんばること」「時計を見ること」「布団の中で考え続けること」だという研究があります。寝室を「悩む場所」にしないつくりは、家の設計でも手助けできます。

  • 不眠が続く理由は、もともとの体質・きっかけ・長引かせる習慣の3つに分けて考えられる
  • 夜の脳は、気持ちのブレーキが効きにくい。夜中に出した結論は、朝に持ち越す
  • 寝室では時計とスマホを見えない場所に。眠れないときに移れる、もう一つの居場所があると安心
  • 眠れない夜が週3回以上・3か月以上続き、昼に支障があるときは、医療機関への相談を考える

時計を見ると、午前2時。明日は早いのに、まだ眠れない。「あと4時間しか眠れない」と計算した瞬間、頭がさらに冴えてくる。そんな夜を過ごしたことはないでしょうか。

眠れない夜は、多くの人が経験するものです。そして、その夜を長引かせる仕組みについては、心理学の研究がかなり進んでいます。興味深いのは、その仕組みの中に、寝室のつくり方や、家の中での過ごし方と関わる部分が少なくないことです。

この記事では、眠れない夜に頭の中で何が起きているのかを研究をもとに整理し、建築士の視点から「悩まない寝室」のつくり方を考えます。なお、この記事は医療的な診断や治療の代わりになるものではありません。眠れない状態が続く場合の相談の目安は、記事の後半にまとめています。

眠れない夜は、めずらしくない

日本の一般の人を対象にした調査では、不眠の症状がある人の割合は、調べ方によって2割前後から3割程度と報告されています。2021〜2022年に約7,900人を対象にした山形県の研究では、23.4%に不眠の症状がみられました。

一時的に眠れない夜があること自体は、自然なことです。ただ、眠れない状態が長く続くと、心の健康にも影響しやすくなります。不眠のある人は、ない人に比べて、その後にうつ病を発症するリスクがおよそ2倍になるという分析が、複数の研究のまとめから報告されています。

不眠が続く3つの要因|「長引かせるもの」は変えられる

1987年、睡眠研究者のスピールマンらは、不眠が続く理由を3つに分けて考える「3Pモデル」を示しました。

要因内容例
素因(もともとの傾向)眠りが浅くなりやすい体質や性格心配しやすい、刺激に敏感
誘因(きっかけ)眠れなくなるきっかけになった出来事仕事の変化、引っ越し、家族の出来事
持続因(長引かせるもの)きっかけが去った後も、不眠を続かせてしまう習慣や考え方布団で長く過ごす、時計を見る、「眠らなきゃ」と焦る

大事なのは3つ目です。きっかけになった出来事が終わっても、眠れなかった夜に身についた習慣や考え方が、不眠を続かせることがあります。そして、この持続因は、体質やきっかけと違って、自分で変えられる部分が多いのです。寝室のつくりや、眠れないときの過ごし方も、その一つです。

夜の脳で起きていること

考えが止まらない|反芻

寝る前に頭の中を何度も同じ考えがめぐることを、心理学では「反芻(はんすう)」と呼びます。寝つけない人の頭の中を録音して調べた研究では、寝る前の考えの多くが、問題の解決や、その日の出来事の振り返り、眠れないことへの心配だったと報告されています。反芻する傾向は、気分の落ち込みと結びつきやすいこともわかっています。

夜は、気持ちのブレーキが効きにくい

2007年、ウォーカーらの研究では、一晩徹夜した人に不快な画像を見せると、感情に関わる脳の部位(扁桃体)の反応が、よく眠った人より約60%大きくなりました。同時に、感情を落ち着かせる前頭前野とのつながりが弱まっていました。

また、真夜中を過ぎて起きているときは、ふだんより悲観的な考えや衝動的な判断に傾きやすいのではないか、という仮説も提案されています(まだ検証の途中です)。夜中に考えたことが、朝になると「なぜあんなに悩んでいたんだろう」と感じられるのは、このためかもしれません。夜中に出した結論は、朝の自分に持ち越す。これだけでも、夜の悩みとの付き合い方は変わります。

「眠ろう」とするほど、眠れなくなる

眠りは、意志の力で引き寄せるのが難しいものです。研究では、「早く眠らなければ」と強く意識させると、かえって寝つきが悪くなることが示されています。眠りに注意を向け、眠ろうと意図し、努力するほど、脳は覚醒してしまうのです。

逆に、寝つけない人に「眠らないで、目を閉じて横になっていてください」と伝えると、眠ることへの焦りが減り、寝つきが良くなったという実験もあります。眠ろうとするより、体を休めることに徹するほうが、結果として眠りに近づきやすいのです。

「眠れていない」という感覚のずれ

不眠に悩む人の多くは、機器で測った睡眠時間より、自分が感じる睡眠時間を短く見積もる傾向があることが知られています。暗い部屋で、うとうとと目覚めをくり返すと、眠っていた時間も「起きていた」と感じやすいのです。

このずれを広げてしまうのが、時計を見ることです。2007年のタンらの実験では、寝つくまでに時計を見るように指示された人は、見ないように指示された人に比べて、寝る前の心配が増え、寝つくまでの時間も長くなりました。これは、もともとよく眠れる人でも同じでした。

最近は、睡眠を記録するアプリや機器も増えています。上手に使えば役立ちますが、記録の数字にこだわりすぎて、かえって眠りへの不安が強くなる人がいることも報告されています。

研究でわかっていること・まだわかっていないこと

◎ わかっていること
  • 不眠が続くことは、その後のうつ病のリスクの高さと結びついている
  • 睡眠不足では、感情に関わる脳の反応が大きくなりやすい
  • 「早く眠らなければ」という焦りや、時計を見ることは、寝つきを悪くしやすい
  • 不眠に悩む人は、実際より睡眠を短く感じる傾向がある
○ まだわかっていないこと
  • 不眠がうつ病を引き起こすのか、両方に共通する原因があるのか、因果の向きはまだはっきりしない
  • 扁桃体の研究は一晩の徹夜の結果で、慢性的な不眠に同じことが起きているかは別に確かめる必要がある
  • 「真夜中の心」は仮説の段階で、十分に検証されていない
  • 寝室の間取りや設計そのものが不眠をどこまで改善するかは、研究が少ない

寝室を「悩む場所」にしない|間取りでできる5つのこと

ここからは建築士の視点です。不眠を長引かせる習慣の一部は、寝室のつくりや家の中の配置と関わっています。家の設計でできることを5つ挙げます。

  1. 時計とスマホが目に入らない配置にする:枕から時計が見えない位置に置ける棚や、スマホの充電場所を寝室の外(廊下やリビングの一角)に用意しておくと、夜中に「何時だろう」と確かめる習慣を減らせます。目覚ましは、見えない位置にあっても鳴れば十分です
  2. 眠れないときに移れる「もう一つの居場所」をつくる:眠れないまま布団で考え続けると、布団が「悩む場所」になってしまいます。リビングの一角や、寝室の近くの小さなスペースに、暗めの暖かい色の明かりで座れる場所があると、一度布団を出て、眠くなってから戻ることができます
  3. 夕方に「考えごとをする場所」を決めておく:心配ごとは、夜の布団の中ではなく、夕方や夜の早い時間に紙に書き出すと良いとされています。そのためのノートとペンを置いておける小さなカウンターや机があると、習慣にしやすくなります
  4. 寝室は暗く、静かに、暑すぎず:遮光できるカーテンや雨戸、道路や設備の音から離れた寝室の配置、冷暖房が効きやすい広さ。寝室の明るさは、不眠の症状と関係する要因の一つとして報告されています
  5. 朝の光が入る場所をつくる:朝に光を浴びることは、体内時計を整える基本です。寝室そのものでなくても、朝食をとるダイニングや洗面所に東からの光が入ると、自然に朝の光を浴びられます
👓 建築士のメモ

寝室の計画では、ベッドの大きさや収納の量に目が向きがちですが、「夜中に目が覚めたとき、何が目に入るか」「眠れないとき、どこへ行けるか」まで考えておくと、寝室の使い心地はずいぶん変わります。照明は、天井の明るい照明だけでなく、足元や低い位置の柔らかい明かりを用意しておくのがおすすめです。照明の考え方はダウンライトだらけの家が、疲れる理由、窓からの音についてはペアガラス=防音だと思ってない?でも書いています。

寝室まわりの配置も、プランで比べてみる PR

寝室の位置、道路や設備との距離、眠れないときに移れる場所があるかどうかは、間取りによって大きく変わります。同じ要望で複数社に間取りを出してもらうと、寝室まわりの考え方の違いも比べられます。

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眠れない夜に試せる4つのこと

研究で効果が示されている不眠の心理療法の考え方をもとに、一般的に勧められている対処法です。ほかの病気がある場合や、薬を使っている場合は、主治医の方針を優先してください。

  1. 眠ろうとしない:「眠らなければ」ではなく、「体を休めていればいい」と考えます
  2. 心配ごとは夕方に書き出す:寝る数時間前に、気になっていることと、明日できる次の一歩を紙に書いておきます
  3. 夜中の結論は保留にする:夜中に浮かんだ考えには、「続きは朝に考える」と区切りをつけます
  4. 眠れないときは、一度布団を出る:しばらく眠れないときは、暗めの明かりの部屋で静かに過ごし、眠くなってから布団に戻ります

こんなときは、医療機関への相談を

  • 寝つけない、夜中に目が覚める、朝早く目が覚めるといった夜が週3回以上・3か月以上続き、昼間の生活に支障があるとき:かかりつけ医、睡眠外来、心療内科など
  • 気分の落ち込みや、何をしても楽しめない状態が2週間以上続くとき:かかりつけ医、心療内科、精神科など
  • 大きないびきや、眠っている間に呼吸が止まっていると指摘されたとき:睡眠外来、呼吸器内科など

気軽に相談できる窓口もあります。働く人のメンタルヘルスについては、厚生労働省の「こころの耳」(電話・SNS・メール相談)、さまざまな悩みの相談先は、厚生労働省の「まもろうよ こころ」にまとめられています。受付時間などは変わることがあるので、各サイトで最新の情報を確認してください。

睡眠薬などの薬の使用や中止は、自己判断せず、必ず医師に相談してください。

家族で話してみたい5つのこと

  • □ 寝室で、夜中に時計やスマホが目に入りやすくなっていないか
  • □ スマホの充電場所を、寝室の外にできるか
  • □ 眠れないときに移れる、落ち着ける場所が家の中にあるか
  • □ 夕方や夜の早い時間に、考えごとを書き出せる場所があるか
  • □ 寝室は、暗さ・静かさ・暑さ寒さの面で落ち着ける環境か

眠れない夜と寝室のよくある質問(FAQ)

Q. 寝室にテレビやデスクを置くのは良くないですか?

一概には言えません。ただ、寝室を「眠る場所」として頭が覚えやすくするために、仕事や長時間の動画視聴は寝室の外でするほうが良いとされています。置く場合も、寝る前は使わない、布団から見えない配置にする、といった工夫がおすすめです。

Q. 夫婦で寝る時間が違い、どちらかが眠れなくなります。

寝室を分ける、同じ寝室でもベッドを離す、引き戸で仕切れるようにする、照明を手元で調整できるようにする、などの方法があります。家族の暮らし方に合わせて、寝室の形を考えてみてください。

Q. 睡眠を記録するアプリは使わないほうがいいですか?

生活リズムを見直すきっかけとして役立つこともあります。ただ、記録の数字を毎朝気にして、かえって眠りへの不安が強くなる場合は、いったん使うのをやめてみるのも一つの方法です。

Q. 寝室の照明は、どんなものがいいですか?

寝る前は、天井の明るい照明より、低い位置の柔らかい暖かい色の明かりのほうが落ち着きやすいとされています。夜中にトイレへ行くときのために、足元を照らす小さな明かりがあると、まぶしさで目が覚めにくくなります。

まとめ|寝室を「眠る場所」に戻す

  • 眠れない夜は多くの人が経験する。ただ、不眠が長く続くと、心の健康にも影響しやすい
  • 不眠を長引かせるのは、きっかけより、眠れない夜に身についた習慣や考え方であることが多い
  • 夜の脳は気持ちのブレーキが効きにくい。夜中の結論は朝に持ち越す
  • 「眠ろう」とするより体を休める。時計とスマホは目に入らない場所に
  • 寝室を悩む場所にしないために、眠れないときに移れる場所や、夕方に考えごとをする場所を家の中に用意する

眠れない夜に一番つらいのは、眠れないことそのものより、布団の中でひとりで考え続ける時間かもしれません。寝室を「悩む場所」ではなく「眠る場所」に戻すために、家のつくりでできることがあります。そして、つらい状態が続くときは、一人で抱え込まず、相談できる場所があることも覚えておいてください。

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この記事を書いた人|メガネ建築士(一級建築士・ハウスメーカー設計士/150棟以上の住宅設計)
設計実務の目線で「後悔しない家づくり」を発信しています。 プロフィール・運営者情報 ▶

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