人はなぜ判断を間違えるのか。そして、どう考えれば納得できる家づくりや暮らしにつながるのか。心理学・認知科学の知見と、設計の現場で見てきたことを重ねて考える連載です。
結論:問題を前にしたとき、人が最初に口にする一言は、だいたい5つに分かれます。「なぜ?」「あれだ」「ほかには?」「とりあえず」「そもそも」。家族の話し合いが噛み合わないのは、性格の違いより問題の解き方の型が違うからかもしれません。そして家づくりの問題の多くは、正解が一つではない問題です。
- どの型にも強みと、その型だけがはまる落とし穴がある
- どの型が正しいかではなく、目の前の問題がどの型を必要としているかで決まる
- 家づくりの悩みは、まず「そもそも何が問題か」を確かめると解きやすくなる
- 家族会議は、一人ずつ書き出してから集めると、型の違いが力になる
「リビングがいつも散らかる」。新しい家の打ち合わせで、こんな悩みが出たとします。そのとき、家族の口から最初に出る一言は何でしょうか。
- 「なんで散らかるんだろう?」
- 「ああ、収納が足りないパターンだ」
- 「棚を増やす? かごを置く? 部屋を分ける?」
- 「とりあえず来週、ボックスを買ってみよう」
- 「そもそも、散らかっていて困るのは誰?」
人が問題を前にしたとき、最初に出る一言は、だいたいこの5つのどれかに分かれます。そして、その一言が、その人の問題の解き方をほとんど決めています。夫婦や家族の話が噛み合わないとき、意見の違いだと思っていたものが、実は解き方の入口の違いだったということは少なくありません。
この記事では、問題解決の研究をもとに、5つの「解き方の型」を順番に見ていきます。なお、これは心理学の正式な性格分類ではありません。問題解決の研究を、最初の一言を手がかりに5つに整理したものです。診断というより、自分と家族を映す鏡として読んでみてください。
先に知っておきたい|問題には2種類ある
5つの型の前に、問題そのものを2つに分けておきます。
| 問題の種類 | 特徴 | 家づくりでの例 |
|---|---|---|
| 答えのある問題(良定義問題) | 正解が一つあり、たどり着く道筋もだいたい決まっている | 建築基準法に合っているか、構造計算が成り立つか、見積もりの計算は正しいか |
| 答えのない問題(不良定義問題) | 正解が一つではなく、何が問題かさえはっきりしない | どんな暮らしがしたいか、リビングが散らかるのをどうするか、親との距離をどうとるか |
学校で習う問題は、ほとんどが前者です。でも、家づくりで家族が悩む問題は、ほとんどが後者です。そして5つの型は、この2種類の問題に対して、得意・不得意がはっきり分かれます。
問題解決の5つの型
| 最初の一言 | 型 | 強み | 落とし穴 |
|---|---|---|---|
| なぜ? | 分析型 | 答えのある問題に強い。原因を正確に見つける | 分析が行動の代わりになる。一度うまくいった手順を手放せない |
| あれだ | 直感型 | 経験のある分野で、圧倒的に速い | 直感が当たる分野と当たらない分野の区別がつかない |
| ほかには? | 発散型 | 誰も思いつかない出口を見つける | 案を出して満足し、選べない |
| とりあえず | 試行型 | 一番早く現実の反応がわかる | 自分の考えに合う方向しか試さない |
| そもそも | 再定義型 | 解かなくていい問題を見つける | 問い直すだけで、何も実行しない |
1. 分析型「なぜ?」|分解して原因をつぶす
分析型の人は、問題を分解します。「散らかるのは平日か休日か」「誰の物が多いか」「どの時間帯か」。原因を一つずつつぶしていきます。
認知心理学の問題解決研究は、この型から始まりました。1972年、ニューウェルとサイモンは、今の状態と目標の状態の差を測り、その差を縮める手を選ぶ、という人の考え方をコンピューターで再現しました(手段目標分析)。
落とし穴は2つあります。一つは、答えのない問題でも分析をやめられないこと。原因を10個挙げて全体像が見えたとき、「解けた」という手応えが生まれます。でも、全体像が見えたことと、最初の一手が決まったことは別です。もう一つは、1942年に心理学者ルーチンスが示した「構え効果」です。複雑な手順で解く問題をくり返し解いた人は、もっと簡単な解き方がある問題でも、覚えた複雑な手順で解いてしまいました。一度うまくいった手順が、次の問題で目をふさぐのです。
2. 直感型「あれだ」|一瞬で見抜く
直感型の人は、問題を見た瞬間に答えが浮かびます。「ああ、これは収納が遠いパターンだ」。理由をうまく説明できなくても、当たっていることが多いのが特徴です。
心理学者ゲイリー・クラインは、消防士や看護師などのベテランが、選択肢を並べて比べるのではなく、状況を見た瞬間に浮かんだ一つの手を頭の中で試して実行していることを明らかにしました。チェスの名人が実戦の盤面を一瞬で覚えられるのも、記憶力ではなく、膨大な「よくある形」を頭に持っているからだという研究があります。直感とは、大量の経験が、意識を通らずに答えを出している状態です。
落とし穴は、直感がいつ信用できるかを本人が知らないことです。2009年、直感に慎重なカーネマンと、直感を重んじるクラインが共同で論文を書き、直感が信用できるのは、規則性のある分野で、はっきりした結果がすぐ返ってくる経験を積んだときだけだという点で一致しました。
3. 発散型「ほかには?」|選択肢を広げる
発散型の人は、問題を見ると案を増やし始めます。棚を増やす、かごを置く、物を減らす、部屋を分ける、置き場所を決める。10個出てきます。
1950年、心理学者ギルフォードは、一つの正解に絞っていく「収束的思考」と、正解を決めずに広げる「発散的思考」を区別しました。ドゥンカーの「ろうそく問題」では、画びょうの入った箱を「入れ物」としか見られない人が多く、箱を台にするという答えに気づけませんでした(機能的固着)。発散型の人は、この固着が弱い傾向があります。
落とし穴は、「で、どれをやるの?」で止まることです。もう一つ意外なのが、みんなで集まって案を出すと、かえって数も質も下がりやすいという研究です(1987年、ディールとシュトレーベ)。誰かが話している間はほかの人が考えを止めて待ち、人前では変な案を言いにくくなるからです。案は一人ずつ出し、集まるのはその後のほうが、発散型の力は生きます。
4. 試行型「とりあえず」|まず動いて確かめる
試行型の人は、考える前に動きます。「とりあえず来週、ボックスを買って置いてみよう」。うまくいかなければ、別の手を試します。
強みは、答えのない問題で、一番早く現実の反応が得られることです。2008年のキースとフレーゼのメタ分析では、ミスを避けるように教える訓練より、ミスをしながら学ぶ訓練のほうが、訓練で扱っていない新しい問題に強くなるという結果が出ています。
落とし穴は、何を試すかの選び方です。1960年、ウェイソンの「2-4-6課題」では、多くの人が自分の仮説に合う数列ばかりを試し、仮説を壊す数列を試しませんでした。「ボックスを置いたら片付いた」としても、それは収納が増えたからなのか、新しい物に家族が一時的に気をつけているだけなのか。自分の考えが外れる可能性を、あえて試すことが大切です。
5. 再定義型「そもそも」|問題そのものを問い直す
再定義型の人は、問題を解く前に疑います。「そもそも、リビングが散らかって困っているのは誰?」「散らかっているのは悪いこと? 家族が集まっている証拠では?」
よく知られた逸話があります。あるビルで「エレベーターが遅い」という苦情が続き、速度の改善や増設が検討されました。そこで誰かが「問題は遅さではなく、待つのが退屈なことでは」と言い、エレベーター前に鏡をつけたところ、苦情が減ったというものです。問題の定義を変えたら、解き方が安くなったのです。
研究もあります。ゲッツェルスとチクセントミハイは、美術学生が静物画を描く前の行動を観察し、モチーフを手に取って並べ替え、何を描くかを決めるのに時間をかけた学生ほど、作品が独創的と評価されたことを報告しました。数年後、さらに18年後の追跡でも、そうした学生のほうが画家として活躍している傾向がありました。
落とし穴は、問い直すだけで何も実行しないことです。「そもそも」のあとに、「だとしたら、何を変えるか」が続けば再定義です。続かなければ、ただの評論になってしまいます。
家族会議が噛み合わない理由
5つの型を並べると、家族の話し合いが噛み合わない理由が見えてきます。夫が「なぜ散らかるのか」を分析している横で、妻は「とりあえず棚を買おう」と動きたい。子どもは「そもそも別に困ってない」と言う。誰も間違っていません。入口が違うだけです。
では、5つの型の人が集まれば最強の家族会議になるのでしょうか。2010年、ウーリーらは、小さなグループにさまざまな課題を解かせ、グループとしての賢さを調べました。その賢さは、メンバーの知能の平均や最高値とはあまり関係がなく、相手の気持ちを読み取る力や、発言の順番が一部の人に偏らないことと関係していました。
つまり、型の違う人がそろっていても、一人が話し続ける場では、一人分の賢さしか出ません。家族会議で大切なのは、全員の型をそろえることではなく、それぞれの型が話す番を持てることです。
研究でわかっていること・まだわかっていないこと
- 一度うまくいった解き方は、次の問題で別の解き方を見えにくくすることがある(構え効果)
- 直感が信用できるのは、規則性があり、結果がはっきり返ってくる分野で経験を積んだとき
- 集まって案を出すより、一人ずつ考えて後で合わせたほうが、案の数と質が上がりやすい
- ミスをしながら学ぶ訓練は、新しい問題への応用に強い
- この記事の「5つの型」は研究を整理したもので、心理学で確立された分類ではない
- 「問題発見」に時間をかけた学生の追跡研究は人数が少なく、結果を一般化するには注意がいる
- グループの賢さの研究は、2人組での追試で発言の順番の効果が再現されなかった例もある
- エレベーターと鏡の話は広く知られた逸話で、出典ははっきりしない
家づくりの問題は、どの型で解くか
5つの型のどれが正しいか、という答えはありません。あるのは、この問題にはどの型が合うかだけです。家づくりの場面に当てはめると、こうなります。
| 家づくりの場面 | 合いやすい型 | 理由 |
|---|---|---|
| 法規・構造・見積もりの確認 | 分析型 | 答えのある問題。手順どおりに確かめるのが一番確実 |
| 経験豊富な設計者の「この配置は暗くなる」 | 直感型 | 日当たりや動線は、規則性があり経験がものを言う分野 |
| 狭い敷地や変形地の間取り | 発散型 | 前提を外した案から、意外な解決が見つかりやすい |
| 家具の配置、収納の使い方 | 試行型 | 住んでから試し、少しずつ直せる |
| 「部屋が足りない」「家が狭い」という悩み | 再定義型 | 本当に足りないのは面積か、収納か、居場所か、を先に確かめる |
建築士がまず「そもそも」から入る理由
設計の打ち合わせでは、要望をそのまま図面にする前に、その要望の奥にある「本当の困りごと」を確かめることがよくあります。「部屋をもう一つ」という要望の正体が、「在宅勤務で集中できる場所がほしい」だったなら、個室でなくても、リビングの一角やカウンターで解決できるかもしれません。問題を正しく立て直すと、解き方が安く、小さくなることが多いのです。
「収納が足りない」という相談では、収納を増やす前に「何が、どこで、出しっぱなしになっているか」を一緒に見ることから始めます。量が足りないのではなく、使う場所から遠いだけということがよくあるからです。分析・直感・発散・試行の前に、一度だけ「そもそも」を挟む。それだけで、間取りの打ち合わせはずいぶん進めやすくなります。収納量の目安は収納はどれくらい必要?でもまとめています。
要望の奥にある困りごとが整理できると、住宅会社ごとの解き方の違いも見えやすくなります。同じ要望で複数社に間取りと資金計画を出してもらうと、「部屋を増やす案」「使い方を変える案」など、問題のとらえ方の違いまで比べられます。
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家族の家づくり会議をうまく進める5つのコツ
- 最初に「そもそも」を一度だけ確かめる:何が問題なのか、誰が困っているのかを、最初に一言ずつ話します。問題の定義がずれたまま解き始めると、議論は噛み合いません
- 要望は一人ずつ書き出してから集める:みんなで話しながら出すより、それぞれ紙やスマホに書いてから見せ合うほうが、案の数も本音も出やすくなります
- 話す順番を回す:声の大きい人や、詳しい人だけが話し続けないように、一人ずつ順番に話す時間をつくります
- 「どれをやるか」は、一番小さく試せる案で決める:一番良い案は、やってみるまでわかりません。迷ったら、試しやすく、戻しやすい案から選びます
- 直感は「どの分野の経験か」を確かめて使う:「前の家でもこうだった」という直感は、同じ条件なら頼りになります。条件が違うときは、一度立ち止まって確かめます
家族で話してみたい5つのこと
- □ 問題が起きたとき、自分が最初に口にする一言はどれか
- □ 家族それぞれの「最初の一言」はどれか(自分では気づきにくいので、聞いてみる)
- □ 今の悩みは、答えのある問題か、答えのない問題か
- □ 「そもそも何が問題か」を、家族で一度言葉にしたか
- □ 家族会議で、全員が話す番を持てているか
問題解決の型と家づくりのよくある質問(FAQ)
Q. 自分がどの型か、どうすればわかりますか?
自分の口癖は、自分の耳には聞こえにくいものです。家族や同僚に「問題が起きたとき、私は最初に何て言ってる?」と聞いてみるのが一番正確です。一つの型に決める必要はなく、場面によって変わることもあります。
Q. 夫婦で解き方の型が違うと、家づくりは難しくなりますか?
むしろ有利なこともあります。型が違うと、一人では気づかない見方が加わるからです。大切なのは、相手の型を「間違い」ではなく「入口の違い」として受け止め、話す順番を分けることです。
Q. 設計者の直感は、信用していいのでしょうか?
日当たり、風通し、動線、家具の納まりなど、経験と結果が積み重なる分野では、経験豊富な設計者の直感は頼りになります。一方、家族の将来の暮らし方のように、結果がすぐにはわからない分野では、直感より家族の話し合いが大切です。
Q. 「そもそも」を言うと、話が進まなくなりませんか?
「そもそも」のあとに、「だとしたら何を変えるか」を必ず続けるようにすると、話は前に進みます。問い直しは、議論を止めるためではなく、正しい問題に向けて進めるために使います。
まとめ|一番強いのは、問題に合う型を選べる人
- 問題を前にした最初の一言は、「なぜ」「あれだ」「ほかには」「とりあえず」「そもそも」の5つに分かれる
- どの型にも強みと、その型だけがはまる落とし穴がある
- 家づくりの悩みの多くは答えのない問題。まず「そもそも何が問題か」を確かめると解きやすい
- 家族会議では、型をそろえるより、全員が話す番を持てることが大切
- 案は一人ずつ出し、選ぶときは一番小さく試せる案から
どの型が上、という話ではありませんでした。問題のほうが、合う型を選んでいます。一番強いのは、5つの型のどれかが得意な人ではなく、目の前の問題がどの型を必要としているかを見分けられる人です。
そして家族の話が噛み合わないとき、それが型の違いだとわかるだけで、すれ違いの半分は性格の問題ではなくなります。次の家づくり会議の前に、家族それぞれの「最初の一言」を聞いてみてください。
答えのない問題は、比べることで解きやすくなります。同じ要望で複数社に間取りと資金計画を出してもらい、家族それぞれの視点で見比べながら、自分たちに合う答えを選んでください。
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