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「家は南向きに」は間違い?|建築士が翻訳する、親世代と子世代の住まいの常識

いえのキホン
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連載|建築士の思考実験 #07

人はなぜ判断を間違えるのか。そして、どう考えれば納得できる家づくりや暮らしにつながるのか。心理学・認知科学の知見と、設計の現場で見てきたことを重ねて考える連載です。

SHEET — 世代と住まいの常識の要点S = 1:建築士の思考実験 07 / kobayan

結論:親世代の家の常識は、間違いではなくその時代の条件に対する最適解でした。だから親の助言は否定も鵜呑みもせず、「なぜそう言うのか」を聞いて、今の条件に翻訳するのが近道です。

  • 人は、10代後半〜20代前半に見た景色を「世界の標準」として持ち続けやすい
  • ただし世代間の価値観の差は、思われているよりずっと小さいという研究がある
  • 「南向き」「和室」「一生に一度」には、それぞれ当時の合理的な理由がある
  • 理由がわかれば、形を変えて今の家に生かせる

家づくりの打ち合わせに、ご両親が同席されることがあります。間取りを見ながら、こんな言葉が出てきます。

「リビングは絶対に南向きにしなさい」
「和室がないと、お客さんが来たときに困るよ」
「家は一生に一度の買い物なんだから、無理してでもいいものを」

若いご夫婦は、少し困った顔をします。間違っているとは言い切れない。でも、自分たちの暮らしにはしっくりこない。

どちらが正しいのか。建築士として打ち合わせの場にいると、この問いの立て方そのものが、少しずれていると感じることがあります。親世代の家の常識は、間違いではなく、その時代の条件に対する最適解だったのです。

この記事では、世代の違いがどこから生まれるのかを心理学と社会学の研究から整理し、親世代の「家の常識」を今の条件に翻訳して、家づくりに生かす方法を考えます。

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世代の違いは、「大人になる途中で見た景色」の違い

社会学者のマンハイムは、1920年代に「人の価値観は、若いころにどんな時代を生きたかで形づくられる」と考えました。

これを裏づける調査があります。アメリカの社会学者シューマンらが、さまざまな年齢の人に「この50年で最も重要だった出来事は何か」と尋ねたところ、どの世代も10代後半から20代前半ごろに起きた出来事を挙げる傾向がありました(Schuman & Scott, 1989)。人は、大人になる途中で見た景色を、その後もずっと「世界の標準」として持ち続けやすいのです。

家の常識にも、同じことが言えます。

大人になった時代そのころの景色生まれやすい家の常識
高度成長〜バブル期給料は毎年上がり、家や車が増えていく家は一生に一度の大きな買い物。いずれ資産になる
平成の長い停滞期景気は上向かず、真面目に働いても報われにくい無理なローンは組まない。失敗しないことが大事
スマホが当たり前の時代情報はいつでも検索でき、他人の暮らしが常に見える先に正解を調べたい。賃貸も選択肢の一つ

どれも、その時代を生きた人にとっては合理的な判断です。

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ただし、違いの半分は「世代」ではなく「年齢」

ここで、少し意外な研究を紹介します。

1986年の流行語大賞に選ばれた言葉の一つに「新人類」があります。当時の若者を、上の世代が「理解できない新しい人類」と呼んだ言葉です。その「新人類」は、いま50代後半から60代。かつて若者だった彼らが、今度は若い世代を「何を考えているかわからない」と言っています。

心理学の研究では、人の性格は年齢とともに一定の方向に変わっていく傾向があることが知られています。若いころは新しいものを求めやすく、年齢を重ねるにつれて、安定や堅実さを重んじる傾向が強くなります。これは世代に関係なく、どの時代の人にも起きることです。

さらに、仕事に対する満足度や会社への愛着などについて、世代間の違いを調べた研究をまとめた分析では、世代による差は小さいか、ほとんどゼロでした(Costanza ほか, 2012)。世代の違いより、同じ世代の中の個人差のほうがずっと大きいのです。

つまり、親が「堅実に」「無理をするな」と言うのは、世代のせいだけではなく、年齢を重ねた人なら誰でも言いやすいことでもあります。30年後、今の若いご夫婦も、自分の子どもに同じことを言っているかもしれません。

親世代の「家の常識」を、今の条件に翻訳する

親の助言を「古い」と切り捨てるのは簡単です。でも、そこには当時の条件に対する合理的な理由があります。理由がわかれば、形を変えて今の家に生かすことができます。建築士として、よく出てくる3つの常識を翻訳してみます。

「リビングは南向きに」

当時の理由:昔の家は断熱や気密の性能が低く、冬の寒さを防ぐ手段が限られていました。南から入る冬の日差しは、最大の暖房だったのです。

今の条件:断熱性能が上がった今の家なら、南向きでなくても冬に暖かく過ごせます。一方で、冬の日差しを取り込み、夏の日差しを遮る考え方は、今も省エネに役立ちます。

翻訳すると:「南向きにしなさい」は、「冬に日が入り、夏は日を遮る窓の計画にしなさい」という意味として受け取れます。土地の条件によっては、南向きにこだわらないほうが暮らしやすいこともあります。詳しくは南向き信仰は正しいのか?で書いています。

「和室がないと困る」

当時の理由:和室は、来客をもてなす部屋であり、法事の場であり、親が泊まりに来たときの寝室であり、子どもが昼寝をする場所でもありました。一つの部屋で多くの役割を担う、とても合理的な空間です。

今の条件:自宅で法事をしたり、大勢の来客を泊めたりする機会は減っています。ただ、「いろいろな使い方ができる部屋が一つある」ことの価値は、今も変わりません。

翻訳すると:「和室がないと困る」は、「用途を決めすぎない部屋を、一つ持っておきなさい」という意味として受け取れます。畳コーナーや、将来は1階の寝室にもなる多目的室という形もあります。考え方は和室は本当に必要?や客間は本当に必要か?で整理しています。

「家は一生に一度の買い物だから、無理してでもいいものを」

当時の理由:給料が上がり続け、土地の値段も上がっていた時代には、少し背伸びをして買った家も、数年後には無理のない買い物になり、資産にもなりました。

今の条件:給料が毎年上がるとは限らず、家の資産価値も立地によって大きく差がつく時代です。無理なローンは、そのまま家計の重荷になりかねません。

翻訳すると:「いいものを」は今も正しい助言です。ただ、その「いいもの」の中身を「見た目の豪華さ」から「長く快適に暮らせる性能と、暮らしの変化に対応できる余地」に置き換えるのが、今の時代の翻訳です。

👓 建築士のメモ

打ち合わせでご両親の意見と若いご夫婦の希望がぶつかったときは、「なぜそうしたほうがいいと思われますか?」と理由を聞いてみるのがおすすめです。理由がわかると、多くの場合、両方の希望を満たす形が見つかります。

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南向きの窓計画や多目的室のように、親世代の知恵を今の家に生かす形は、会社や設計者によって提案がさまざまです。同じ要望で複数社に間取りを出してもらうと、ご両親と一緒に「今の条件での答え」を並べて見比べられます。

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世代の違いを越える、3つの翻訳のコツ

  1. 「なぜ」を聞く:親の助言を受け取ったら、「どうしてそう思うの?」と理由を聞いてみる。理由の中に、今も使える知恵が入っていることが多い
  2. 自分たちの「なぜ」も一度伝える:「和室はいらない」ではなく、「来客は年に数回だから、その分を家族の居場所に使いたい」と理由を添える
  3. 形を変えて取り入れる:助言をそのまま採用するか、全部断るかの二択にしない。「南向き」を「窓の計画」に、「和室」を「多目的室」に、形を変えて取り入れる

翻訳とは、相手の言葉を丸暗記することではなく、言葉の奥にある理由を確かめ、自分たちの言葉で言い直すことです。

親の助言を受けたときに確かめたい4つのこと

  • □ その助言の「理由」を聞いたか
  • □ その理由は、今の家の性能や暮らし方でも当てはまるか
  • □ 当てはまらないなら、形を変えて取り入れられる部分はないか
  • □ 自分たちの希望についても、理由を添えて伝えたか

世代と住まいの常識のよくある質問(FAQ)

Q. 親が資金援助をしてくれる場合、意見に従うべきですか?

援助への感謝と、間取りの決定は分けて考えてよいと思います。ただ、意見を頭から否定すると関係がこじれやすいので、「なぜそう思うのか」を聞いたうえで、形を変えて取り入れられる部分を一緒に探すのがおすすめです。住むのは自分たちなので、最終的な判断は自分たちで行いましょう。

Q. 二世帯住宅で、世代の違いをどう調整すればいいですか?

二世帯住宅では、価値観の違いが毎日の暮らしに直接出てきます。音や生活時間、どこまで共有するかなど、具体的なルールを設計の段階で話し合っておくことが大切です。考え方は二世帯住宅の「音問題」や近居・同居・別居で書いています。

Q. 自分たちの希望が「若者の流行」に流されていないか不安です。

その不安は大切です。世代の違いの半分は年齢の違いなので、今の希望が10年後も同じとは限りません。迷ったら、10年後の暮らしを想像して、変えられる余地を残しておくと安心です(連載#03)。

まとめ|正しさより、理由を確かめ合う

  • 人は、大人になる途中で見た景色を「世界の標準」として持ち続けやすい
  • ただし世代間の価値観の差は思われているより小さく、違いの半分は年齢の違い
  • 「南向き」「和室」「一生に一度」には、それぞれ当時の合理的な理由がある
  • 親の助言は否定も鵜呑みもせず、理由を聞いて、今の条件に翻訳する

親世代の家の常識は、その時代を懸命に生きた人たちの知恵です。そして今のあなたの常識も、30年後には誰かに「古い」と言われるかもしれません。どちらが正しいかを決めるより、言葉の奥にある理由を確かめ合うこと。それが、世代を越えて納得できる家をつくる近道です。

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この記事を書いた人|メガネ建築士(一級建築士・ハウスメーカー設計士/150棟以上の住宅設計)
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