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上座はなぜ「奥」にあるのか|床の間と席次から読む、部屋の序列

建築
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連載|住まいから読む日本文化 第9話

玄関、障子、床の間、年中行事。見慣れた住まいの中にある日本文化を、古典と研究を手がかりに読み直す連載です。伝統をただ礼賛するのではなく、「なぜそうなっているのか」と「それは今も正しいのか」を、一級建築士の目で考えます。

SHEET — 上座と「奥」S = 1:第9話 内と外のあいだ / kobayan

結論:上座が「奥」にあるのは、床の間の格式と、出入口から遠い落ち着きと、身分の序列が重なった結果です。

  • 和室では、床の間の前が上座、出入口に近い側が下座が基本
  • 書院造では、主室が一段高い「上段」になり、その背後に床・棚などの座敷飾りが設けられた
  • 建築家の槇文彦は、見え隠れしながら奥へ導かれる「奥性」を、日本の都市空間の特徴として論じた
  • 今のリビングでは、序列の席ではなく、だれもが落ち着ける席を一つつくる、と読み替えられる

家にお客さまを迎えたとき、「どうぞ、こちらへ」と、どの席を勧めるでしょうか。ソファの奥の席か、窓際か、入口に近い椅子か。たいていの人は、深く考えなくても、入口から遠い席を勧めます。

部屋の中には、目に見えない序列があります。上座と下座です。では、なぜ上座は「奥」にあるのでしょうか。

この記事では、席次の決まり、書院造の部屋のつくり、そして建築家・槇文彦の「奥」という考え方をたどり、最後に一級建築士として、今のリビングで「奥」をどう読み替えられるかを考えます。

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上座の決まり|床の間と出入口

ニッポンドットコムの解説によれば、和室の上座と下座は、床の間と出入口を基準に決まります。

  • 上座:床の間の前が基本。床の間は、もとは仏画や仏具を置く神聖な場所だったため、その前が上席になったという説がある
  • 下座:出入口に近い席。お茶を運んだり出入りしたりする役目は、目下の人が担うのが一般的だった
  • 奥と入口:和室でも洋室でも、部屋のいちばん奥が上座、出入口に近い側が下座
  • 複数の人がいるとき:上座から見て左が次の席になる「左上位」が原則

第4話で見たように、床の間の起源は、仏画を掛けて香炉・花瓶・燭台を並べる礼拝の形にありました。上座は、その神聖な場所を背にする席として生まれ、やがて家の格式や人の序列を表す席になっていきます。

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書院造と「上段の間」|序列は床の高さにも表れた

部屋の序列は、座る位置だけでなく、建物そのもののつくりにも表れていました。室町時代から桃山時代にかけて完成した書院造は、武家の対面の儀礼を行うための建物でもありました。

『ブリタニカ国際大百科事典』によれば、書院造の主な部屋は、三ノ間、二ノ間、一ノ間と鉤の手に並び、一ノ間はほかより一段高い「上段」になっていました。『山川 日本史小辞典』も、主室を上段の間とし、その背後に床の間や違い棚などの座敷飾りを設けたことを、書院造の特色として挙げています。

つまり、いちばん奥の部屋は、いちばん高く、いちばん飾られた部屋でした。奥へ進むほど、床は高く、身分は上になる。部屋の並びそのものが、序列を表す装置だったわけです。

「奥」という考え方|槇文彦の『見えがくれする都市』

この「奥」を、住まいや建物を超えた日本の空間の特徴として論じたのが、建築家の槇文彦です。槇らの著書『見えがくれする都市』(鹿島出版会、1980年)のもとになったのは、1978年に雑誌『世界』に発表した論文「奥の思想」でした。

INAX REPORTに掲載された内藤廣との対談によれば、槇は、見えたり隠れたりすることで生まれる「空間の襞(ひだ)」が幾重にも重なり、奥へ奥へと導かれる感覚、つまり「空間の奥性」が濃密に演出されていることを、日本の都市空間の大きな特徴の一つと考えました。

興味深いのは、槇が、奥に何があるのか、奥が何を象徴するのかを、あえて語らなかったことです。奥を何か特定のものとして固めてしまうと、ヨーロッパの都市の「中心」のように、権力的な意味を帯びかねないから、と対談では説明されています。

ここに、上座の話との違いがあります。書院造の上段の間は、奥に身分の高い人を置く、はっきりした序列の装置でした。槇の言う「奥」は、何があるかわからないまま、人を引き込んでいく空間の性質です。同じ「奥」でも、序列としての奥と、気配としての奥がある、と言えそうです。

そのまま信じなくていい|上座と「奥」の読み方

上座は、敬意の表現であり、序列の表現でもあった

上座は、客を大切にもてなすための工夫です。同時に、家の中で父親や家長がどこに座るかを決め、身分の上下を目に見えるようにする仕組みでもありました。第4話で見たように、戦後には床の間が封建的な住まいの象徴として批判されたこともあります。上座を「美しいおもてなしの文化」とだけ語るのは、片面だけを見ることになります。

「奥」は、日本だけのものではない

部屋の奥に主人や客の席を置き、入口側を控えの場所とする考え方は、ほかの文化の住まいや儀礼にも見られます。槇自身も、「奥」を日本固有の本質として固めることを避けていました。「奥の文化は日本独自」と言い切るより、日本の空間で特に濃く表れている性質と考える方が慎重です。

建築士として読む|今のリビングで「奥」をつくる

今の家に、上段の間や本格的な床の間は要りません。けれど、上座が「奥」に置かれてきた理由のうち、序列以外の部分は、今の家でもそのまま役に立ちます。

出入口から遠く、背中が壁の席

人の出入りが少なく、背中を守られ、部屋全体を見渡せる席は、だれにとっても落ち着く席です。リビングのソファを、入口に背を向ける位置ではなく、入口から少し離れ、壁を背にできる位置に置くだけで、部屋の居心地は変わります。

入ってすぐに、全部を見せない

玄関を開けた瞬間に家の奥まで見通せる間取りは、明るく開放的ですが、奥へ進む楽しみはありません。廊下を少し曲げる、壁や棚で視線を一度受け止める。槇の言う「見えがくれ」を、家の中に小さくつくることができます。

序列の席ではなく、「その日の主役」の席

今の家族に、固定した上座は必要ないかもしれません。けれど、客を迎える日、誕生日を祝う日など、その日の主役に座ってもらう「いちばん良い席」を一つ決めておくと、もてなしの場面で迷わずに済みます。序列ではなく、役割としての上座です。

👓 建築士のメモ

家具の配置の打ち合わせでは、「お客さまが来たら、どこに座ってもらいますか」と聞くことがあります。即答できる家は、たいてい居心地の良いリビングになっています。答えに迷う場合は、ソファやダイニングの席の向きと、入口との関係を一度見直してみてください。客間をどう考えるかは客間は今も必要かで書いています。

資料で確かめられること・言い切れないこと

◎ 確かめられること
  • 和室では、床の間の前が上座、出入口に近い側が下座が基本とされる
  • 書院造では、主室が一段高い上段になり、その背後に座敷飾りが設けられた
  • 槇文彦は、見え隠れする空間の重なりによる「奥性」を、日本の都市空間の特徴として論じた
  • 槇は、奥が何を象徴するかをあえて語らず、奥を実体化することを避けた
○ 言い切れないこと
  • 上座の決まりが、すべての時代・地域で同じだったということ
  • 「奥」を大切にする空間の感覚が、日本だけのものだということ
  • 窓際や景色の良い席が、伝統的に上座だったということ(和室の基準は床の間と出入口)

暮らしの中で試してみたい3つのこと

  • □ 家の中で、いちばん落ち着く席はどこかを家族それぞれに聞いてみる
  • □ その席が、出入口からどのくらい離れ、背中に何があるかを確かめてみる
  • □ 玄関を開けたとき、どこまで見通せるかを、客の目線で確かめてみる

上座と「奥」のよくある質問(FAQ)

Q. 和室の上座はどこですか?

床の間の前が基本で、出入口に近い側が下座です。床の間がない部屋では、出入口から最も遠い奥の席が上座とされます。

Q. 洋室やリビングでも上座はありますか?

和室・洋室を問わず、部屋の奥、出入口から遠い席が上座とされるのが一般的です。ただ、席の形や間隔によって変わるため、同席する人が窮屈にならないよう配慮することが大切だとされています。

Q. 上座が奥にあるのはなぜですか?

床の間を背にする格式、出入口から遠く落ち着ける位置であること、書院造に見られる奥ほど高く飾られた部屋の序列などが重なっているためと考えられます。

Q. 槇文彦の「奥」とは何ですか?

建築家の槇文彦が論文「奥の思想」や著書『見えがくれする都市』で論じた考え方で、見え隠れする空間が重なり、奥へと導かれる感覚を、日本の都市空間の特徴の一つとしてとらえたものです。

Q. 今の家でも上座を意識した方がよいですか?

固定した序列の席は必要ないかもしれません。ただ、出入口から遠く、壁を背にでき、部屋を見渡せる「落ち着ける席」を一つ用意しておくと、来客時も家族の日常も過ごしやすくなります。

まとめ|序列の奥から、居心地の奥へ

  • 和室の上座は、床の間の前、出入口から遠い奥の席
  • 書院造では、奥の部屋ほど高く、飾られ、身分の高い人の場所だった
  • 槇文彦は、見え隠れしながら奥へ導かれる「奥性」を日本の空間の特徴として論じた
  • 今の家では、序列ではなく、落ち着ける席と、見えがくれする奥行きとして生かせる

上座は、身分の序列を表す仕組みでしたが、そこには、人が落ち着ける場所の条件も含まれていました。あなたの家の「いちばん良い席」は、どこにありますか。

参考文献

  • ニッポンドットコム「上座・下座」(ガイド・トゥ・ジャパン)。和室・洋室の上座と下座の決め方、左上位に用いました。記事を読む
  • 「書院造」『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』『山川 日本史小辞典 改訂新版』、工藤圭章「書院造」『日本大百科全書(ニッポニカ)』。上段の間と座敷飾り、対面儀礼に用いました。コトバンクで読む
  • 槇文彦ほか『見えがくれする都市 江戸から東京へ』(SD選書、鹿島出版会、1980年)。内容は、内藤廣・槇文彦の対談「時代を画した書籍-8『見えがくれする都市』」(INAX REPORT No.174)によりました。対談を読む(PDF)
  • 平井聖「床の間」『日本大百科全書』、鈴木充「床の間」『世界大百科事典』。床の間の起源と格式、戦後の批判に用いました(第4話参照)。

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この記事を書いた人|メガネ建築士(一級建築士・ハウスメーカー設計士/150棟以上の住宅設計)
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