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スマホが奪ったのは集中力だけではない?|建築士が考える、空白時間と暮らしの設計

いえのキホン
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連載|建築士の思考実験 #04

人はなぜ判断を間違えるのか。そして、どう考えれば納得できる家づくりや暮らしにつながるのか。心理学・認知科学の知見と、設計の現場で見てきたことを重ねて考える連載です。

SHEET — スマホと空白時間の要点S = 1:建築士の思考実験 04 / kobayan

結論:スマホが脳をどこまで変えたかは、研究でもまだ結論が出ていません。それでも確かなのは、行動は意思より環境に引っぱられやすいことです。家の中に「スマホから離れやすい置き場所」と「ぼんやりできる居場所」を設計しておくのが近道です。

  • 通知は「来るかもしれない」期待で人を引きつける仕組みになっている
  • 「スマホが置いてあるだけで集中が落ちる」研究は、追試で再現されないものもあり、結論は出ていない
  • 人はもともと「何もしない時間」が苦手。だからこそ、空白は意思ではなく環境でつくる
  • 充電の置き場、寝室のコンセント、窓辺の居場所。家の設計で変えられることがある

スマホが当たり前になる前、電車での移動中や、病院の待合室で、あなたは何をしていたでしょうか。

中吊り広告を端から読んでいた。文庫本を開いていた。窓の外をぼんやり眺めていた。毎日のように過ごしていた時間なのに、思い出そうとすると、記憶は意外と薄いものです。

いまは、信号待ちの数秒やエレベーターの中でも、手が自然にポケットへ伸びます。生活の中から、何もしない時間がほとんど消えました。

「スマホが脳を変えた」という話はよく聞きます。ただ、その根拠になっている研究の中には、その後の追試で同じ結果が出なかったものもあります。この記事では、わかっていることとわかっていないことを分けたうえで、建築士として一つの提案をします。意思の力でスマホと戦うより、家の環境を少し変えるほうが、ずっと確実に空白の時間を取り戻せる、という話です。

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「来るかもしれない」が、指を動かす

スマホを見ても、大した知らせが来ていないことはよくあります。それでも、また手が伸びる。

脳の報酬の仕組みを調べた研究では、報酬を受け取った瞬間より、報酬が来るかもしれないと期待した瞬間に、脳が強く反応することが知られています。しかも、確実にもらえるものより、もらえるかどうかわからないもののほうが、人を引きつけやすい。

通知や、画面を引っぱって更新する動作は、まさに「何が来るかわからない」仕組みです。良い知らせかもしれないし、どうでもいい広告かもしれない。この「わからなさ」が、確認したくなる気持ちを生みます。

つまり、スマホをつい見てしまうのは、あなたの意思が弱いからとは限りません。そうなりやすいように作られている道具だと考えたほうが、対策を立てやすくなります。

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「スマホで脳が変わった」は、どこまで本当か

スマホと集中・記憶について、よく紹介される研究があります。ただ、そのうちいくつかは、その後の追試で同じ結果が出ませんでした。

よく聞く話もとの研究その後わかったこと
スマホが机に置いてあるだけで、電源が切れていても集中が落ちる2017年の実験(Ward ほか)同じ条件での追試では効果が出なかった。一方で、関連研究をまとめた2023年の分析では「全体としては悪影響あり、ただし結果のばらつきが大きい」。結論は出ていない
検索できると分かった情報は、覚えなくなる(Google効果)2011年の実験(Sparrow ほか)最もよく引用された実験は、2018年と2020年の追試で再現されなかった。「情報そのものより、どこにあるかを覚える」という傾向は、より控えめに考えたほうがよい
人は何もしない15分より、電気ショックを選ぶ2014年の実験(Wilson ほか)男性18人中12人、女性24人中6人が、自分で軽い電気ショックを押した。人数は多くなく、解釈への批判もある

はっきり言えるのは、「スマホが15年で脳の配線を作り替えた」と断定できるだけの証拠は、まだないということです。

それでも、3つ目の実験が示していることには、うなずける人が多いのではないでしょうか。人はもともと、何もしない時間がとても苦手です。そこに、退屈を一瞬で消せる道具が現れた。結果として、信号待ちもエレベーターも寝る前の数分も、生活の中から空白がほとんどなくなりました。

空白の時間にも、意味があるかもしれない

脳の研究では、何かに集中していないとき、ぼんやりしているときにも、特定の脳の回路が活発に働いていることが知られています。過去の出来事を振り返ったり、先のことを考えたり、離れた記憶同士を結びつけたりしているのではないか、と考えられています。

お風呂や散歩の途中でふとアイデアが浮かぶのは、こうした働きと関係しているのかもしれません。ただし、「ぼんやりする時間が多いほど創造的になる」とまで言える研究はありません。ここでは、空白はただの無駄ではないかもしれない、というところまでにとどめておきます。

意思より環境。家の中で空白を取り戻す4つの設計

スマホが「つい見てしまう」ように作られているなら、意思の力で勝ち続けるのは大変です。発想を変えて、見なくても済む環境をつくるほうが、ずっと確実です。

そして、毎日の環境として一番大きいのが家です。家づくりやリフォームの段階なら、次のような工夫を間取りに組み込めます。

1. 充電の「定位置」を、寝室とリビングの外につくる

スマホは、充電する場所に自然と集まります。玄関からリビングへ向かう途中にカウンターやニッチを設け、そこにコンセントを付けて家族のスマホの「駅」にしておくと、帰宅したら置く、という流れができやすくなります。

2. 枕元のコンセントを、あえて手の届かない位置にする

ベッドの枕元にコンセントがあると、確かに便利です。ただ、手の届く場所に置いたスマホは、寝る前にも起きてすぐにも見てしまいがちです。目覚ましを時計に任せられるなら、寝室のコンセントはベッドから少し離れた位置にする、という選択肢もあります。

もちろん、夜間の連絡が必要な家庭や、介護が必要な家族がいる場合は、枕元にあったほうが安心です。大事なのは、なんとなく決めずに、自分たちの暮らしに合わせて選ぶことです。

3. 作業する場所の視界から外す

在宅ワークや勉強をする場所では、スマホが視界に入らない収納を近くに用意しておくと、置き場所に迷いません。「机の上に置いておくだけで集中が落ちる」かどうかは研究でも結論が出ていませんが、見えていなければ手に取るきっかけは確実に減ります。デスクまわりの視線の考え方は在宅ワークが疲れるのは、視線のせいかもしれないで書いています。

4. 「何もしない」が許される居場所をつくる

窓辺のベンチ、外を眺められる小さなヌック、縁側のような半屋外の場所。用途を決めすぎない、ぼんやりするための場所が家に一つあると、スマホを手放した数分を過ごしやすくなります。

👓 建築士のメモ

コンセントの位置は、建ててから変えるには壁を開けて配線をやり直す必要があり、意外と後戻りしにくい部分です。「どこで充電し、どこには置かないか」は、電気の打ち合わせの段階で決めておくのがおすすめです。余白のある空間の考え方は余白のある空間が、生活にゆとりをつくるでも書いています。

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家づくりをしない人も、今日からできること

間取りを変えられなくても、考え方は同じです。

  • 充電器を寝室から別の部屋へ移す
  • 人からの連絡以外の通知を切る
  • 電車で1駅分だけ、スマホを鞄にしまってみる

全部やる必要はありません。ゼロを目指すと反動が来やすいので、1日のうちの数分だけ、空白を取り戻すことから始めてみてください。

電気の打ち合わせ前に確かめたい5つのこと

  • □ 家族のスマホは、帰宅したらどこで充電するか
  • □ 寝室の枕元にコンセントは本当に必要か。必要なら、それはなぜか
  • □ 仕事や勉強をする場所に、スマホを置いておける収納はあるか
  • □ スマホを持たずに、ぼんやり外を眺められる場所はあるか
  • □ 目覚まし時計など、スマホの代わりになる道具を置く場所はあるか

スマホと空白時間のよくある質問(FAQ)

Q. スマホは脳に悪いのですか?

悪影響を示す研究もあれば、追試で再現されなかった研究もあり、まだはっきりした結論は出ていません。この記事は「スマホは悪い」という立場ではなく、使う時間と使わない時間を自分で選びやすい環境をつくろう、という提案です。

Q. 寝室にコンセントを付けないと不便ではありませんか?

寝室にコンセントそのものは必要です。ここでの提案は、枕元の手が届く位置にスマホ用の充電場所を置くかどうかを、意識して選ぶことです。夜間の連絡が必要な家庭では、枕元にあるほうが安心な場合もあります。

Q. 家を建てる予定がなくても、できることはありますか?

あります。充電器を寝室の外へ移す、人からの連絡以外の通知を切る、1日のうち数分だけスマホを鞄にしまう、といった小さな環境の変更から始められます。

まとめ|空白は、意思ではなく置き場所でつくる

  • スマホは「何が来るかわからない」期待で、人を引きつけやすい仕組みになっている
  • スマホで脳が変わったという研究には、追試で再現されなかったものもあり、結論は出ていない
  • 人はもともと何もしない時間が苦手。だから空白は、意思ではなく環境でつくる
  • 充電の置き場所、寝室のコンセント、ぼんやりできる居場所は、家の設計で変えられる

「暇つぶし」と呼んでいたあの時間は、もしかすると、頭の中を整理するための大切な時間だったのかもしれません。それを取り戻すのに、強い意思は要りません。スマホの置き場所を一つ決めることから、始めてみてください。

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この記事を書いた人|メガネ建築士(一級建築士・ハウスメーカー設計士/150棟以上の住宅設計)
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