人はなぜ判断を間違えるのか。そして、どう考えれば納得できる家づくりや暮らしにつながるのか。心理学・認知科学の知見と、設計の現場で見てきたことを重ねて考える連載です。
結論:流行に「乗る人」と「乗らない人」がいるのではありません。全員いつかは乗る。乗る順番が違うだけです。そしてその順番は、分野ごとに違います。家づくりでは、流行に乗るかどうかより、どの分野で、どの順番に並ぶかを自分で決めることが後悔を減らします。
- 新しいものは、5つの層を順番に通って広まる(イノベーター理論)
- この位置は性格ではなく分野ごと。同じ人が、設備では先頭、デザインでは最後尾でもおかしくない
- 「人と違う家」を目指しても、基準が多数派なら結局似た家になりやすい
- 家では、流行はあとから戻せる場所で取り入れ、戻せない場所は慎重に選ぶ
SNSで見かける素敵な家。回遊動線、ファミリークローゼット、室内窓、くすみカラーの壁、土間のある玄関。「今はこれが人気です」と言われると、取り入れたくなる気持ちと、「みんなと同じでいいのかな」という気持ちが同時に湧いてきます。
流行に乗るか、乗らないか。家づくりでは、この迷いが何度もやってきます。しかも家は、服のように来年買い替えるわけにはいきません。
ところが社会学の研究から見ると、この問いの立て方そのものが少しずれています。流行に乗る人と乗らない人がいるのではなく、全員が乗る。違うのは順番だけ。そして、その順番は人の性格ではなく、分野ごとに決まっているのです。
この記事では、新しいものがどう広まるかを説明した「イノベーター理論」をもとに、家づくりの流行との付き合い方を、建築士の視点で整理します。
流行は「山の形」で広まる|トウモロコシの研究から
1943年、アメリカの社会学者ライアンとグロスは、アイオワ州の2つの地域で259軒の農家を調べ、新しい交配種のトウモロコシがどう広まったかを報告しました。収穫が明らかに増える種で、使わない理由はほとんどありません。
それでも、一斉には広まりませんでした。最初の数年はほんの一部の農家だけ。やがて少しずつ増え、ある時期を境に一気に広がり、最後の数軒は周りがほぼ全員使ってから切り替えました。10年以上かけて、ほぼ全員に行き渡ったのです。そして、農家が決め手にしたのは、売り込みよりも近所の農家の畑と話でした。
こうした研究を数多くまとめたのが、社会学者エヴェレット・ロジャーズの『イノベーションの普及』(1962年)です。ロジャーズは、新しいものを受け入れる順番で、人を5つの層に分けました。
新しいものを受け入れる5つの層
| 層 | およその割合 | 特徴 | 家づくりでいうと |
|---|---|---|---|
| イノベーター | 2.5% | 新しいから試す。失敗も多く引き受ける | 発売されたばかりの設備や工法を、真っ先に採用する人 |
| アーリーアダプター | 13.5% | 残りそうなものを見極めて乗る。周りの判断材料になる | SNSで発信し、「この家の真似をしたい」と言われる人 |
| アーリーマジョリティ | 34% | 信頼できる身近な人が使っていると確認してから乗る | 知人の家を見て「良かった」と聞いてから取り入れる人 |
| レイトマジョリティ | 34% | 必要に迫られてから乗る。乗ったあとも疑う | 標準仕様になってから、なんとなく採用する人 |
| ラガード | 16% | 判断の基準が過去にある。最後まで乗らないこともある | 「昔ながらの家で十分」と考える人 |
この割合は、統計の山の形に区切りを入れて決めたもので、実際の流行が毎回この数字になるわけではありません。ただ、順番とおおよその形は、農業でも家電でも、さまざまな分野でくり返し確認されてきました。
先頭の2.5%は「流行の実験台」
意外なのは、一番先に乗る人の姿です。ロジャーズによれば、イノベーターは周りの評価をあまり気にせず、新しいものを新しいという理由で試します。そして新しいものの多くは、定着せずに消えていきます。つまりこの層は、失敗の大半を引き受けているのです。
家でいえば、発売されたばかりの設備を採用した人は、故障や不具合、修理できる業者の少なさ、部品の供給期間といった、まだ誰も知らない問題に最初に出会います。その経験があるから、次の人たちは安心して選べるようになります。
「溝」を越えられない流行もある
1991年、ジェフリー・ムーアは、2番目のアーリーアダプターと3番目のアーリーマジョリティの間に深い溝があると指摘しました。「キャズム」と呼ばれます。2番目は「新しいから」乗り、3番目は「安全だから」乗る。理由がまったく違うので、2番目の中で盛り上がっても、3番目に届かずに消えていくものが多いのです。
家づくりのSNSで一時期よく見かけたのに、数年後にはあまり見なくなったアイデア。思い当たるものがあれば、それはこの溝を越えられなかったものかもしれません。
最後尾の人は「頑固」なのか
最後に乗る16%は、周りから頑固、時代遅れと見られがちです。ただ、ロジャーズ自身は、この層にはお金や時間、失敗したときの余裕が少ない人が多いことを指摘しています。一度の失敗を取り返せない人にとって、確実に動くとわかったものしか選ばないのは、むしろ合理的な判断です。
ロジャーズは、新しいものが広まらない原因を、乗らなかった人の性格のせいにしてしまう傾向を「個人を責める偏り」と呼びました。実際の原因は、多くの場合その人の置かれた状況にあります。高性能な住宅を選ばない人を「意識が低い」と決めつけるのも、同じ偏りかもしれません。予算の中で、優先したいものが別にあるだけのことも多いのです。
「流行に乗らない」も、流行に縛られている
一方で、自分の意思で「流行には乗らない」と決めている人もいます。みんなが選ぶものは選ばない。家づくりでいえば、「人と違う家にしたい」という気持ちです。
社会学者ゲオルク・ジンメルは、1904年の論文で、流行は「みんなと同じでいたい」と「みんなと違っていたい」という正反対の気持ちを同時に満たすものだと述べました。流行に乗れば仲間と同じになれ、まだ乗っていない人とは違う側に立てる。全員が乗った時点で「違っていたい」が満たされなくなり、その流行は終わります。
心理学にも、周りと同じすぎると落ち着かなくなり、あえて違うものを選ぼうとする「独自性欲求」という考え方があります。ただ、「あえて違う」を選ぶとき、その基準は多数派です。多数派が右へ行ったから左へ行く。それは、多数派を一番よく見ている選び方でもあります。
ヒップスター効果|違いを目指すと、似てくる
2014年、数学者のジョナサン・トゥブールは、多数派と逆を選ぼうとする人たちをモデルの中で動かす研究を発表しました。結果、逆を選ぼうとする人たちが、互いに同じ選択にそろっていくことが示されました。論文の題は「ヒップスター効果:反主流派はなぜみんな同じに見えるのか」。実験ではなく数理モデルの話ですが、思い当たる光景はあると思います。
家づくりでも、「よくある家にはしたくない」と同じような参考写真を集めた結果、似た雰囲気の家がたくさん生まれる、ということは十分に起こり得ます。人と違うかどうかを基準にすると、結局は人を見て選ぶことになるからです。
流行の位置は、性格ではなく「分野ごと」
この理論で一番見落とされやすいのが、ここです。ロジャーズの5つの層は、一つの新しいものに対する位置であって、その人の性格ではありません。
家電は発売日に買うけれど、服は10年同じものを着ている。音楽は周りが聴き始めてから聴く。同じ人の中に、先頭も最後尾もあるのが普通です。家づくりでも同じで、こんな人は珍しくありません。
- 設備:最新の家電やスマートホームは、真っ先に試したい(イノベーター)
- 性能:断熱や耐震は、実績を確認してから選びたい(アーリーマジョリティ)
- デザイン:内装は、流行りすぎないものがいい(レイトマジョリティ)
- 間取り:和室は、昔ながらの形を残したい(ラガード)
「私は流行に乗らない」「私は新しいもの好き」という自己像は、たいてい一つか二つの分野の自分を、全体に広げたものです。家づくりでは、分野ごとに、自分がどの順番に並びたいかを決めるほうが、ずっと選びやすくなります。
必要に迫られて乗る分野もある|省エネ性能
家づくりには、流行ではなく制度によって全員が乗る分野もあります。2025年4月から、原則としてすべての新築住宅で省エネ基準への適合が義務になりました。さらに国は、2030年までに基準をZEH水準へ引き上げることを目指しています。
かつては一部の人が先に選んでいた断熱性能が、今では全員が乗る最低ラインになりました。レイトマジョリティやラガードの位置に立つ人も、制度によって乗ることになる。これも、イノベーター理論の山の形が進んだ姿です。ここで「最低ラインに合わせるか、少し先に並ぶか」は、30年以上住む家では大事な判断になります。
研究でわかっていること・まだわかっていないこと
- 新しいものは一斉には広まらず、時間をかけて山の形(累積するとS字)で広まることが多い
- 広まり方には、身近な人の使用や会話が大きく影響する
- 受け入れる順番は分野ごとに違い、同じ人でも分野によって位置が変わる
- 最後に乗る人の遅れには、性格だけでなく資源や状況が関わっている
- 5つの層の割合は理論上の区切りで、実際の比率は流行によってばらつく
- どの流行が「溝」を越えるかを、事前に正確に予測する方法はない
- ヒップスター効果は数理モデルの結果で、現実の人の行動でどこまで起きているかは検証が続いている
家の流行と付き合う5つの方法
では、家づくりで流行とどう付き合えばいいのでしょうか。設計の現場で考えている基準を、施主の方が使える形にまとめます。
- 「戻せる場所」と「戻せない場所」を分ける:壁紙の色、照明、家具、カーテンは、あとから比較的簡単に変えられます。間取り、構造、窓の位置、配管、床下や壁の中の設備は、変えるのが大変です。流行は戻せる場所で楽しみ、戻せない場所は「10年後も困らないか」で選ぶのが基本です
- 分野ごとに自分の順番を決める:設備は先頭、性能は実績重視、内装は控えめ、といったように、分野ごとに並ぶ位置を家族で決めておくと、打ち合わせのたびに迷わずに済みます
- 先頭に立つなら、実験台の覚悟と保険を持つ:新しい設備を選ぶなら、保証期間、部品の供給期間、修理できる業者、交換するときの費用と手間まで確認します。交換しやすい納まりにしておけば、外れても取り返せます
- 「似た立場の人」の実体験を聞く:トウモロコシの農家が隣の畑で決めたように、住宅も実際に住んでいる人の話が一番の判断材料です。発信力のある人より、家族構成や暮らし方が自分に近い人の声を探します
- 「人と違うか」ではなく「自分たちに合うか」で決める:多数派と同じか違うかを基準にすると、どちらにしても多数派に振り回されます。家族の暮らし方から逆算して選んだものなら、それが流行と重なっていても、外れていても、後悔は少なくなります
打ち合わせで流行の仕様を相談されたとき、設計者がまず考えるのは「それを10年後に外したくなったら、どれくらい大変か」です。外しやすいなら気軽に取り入れていい。外しにくいなら、流行かどうかより、自分たちの暮らしに本当に合うかを確かめてから決める。この一つの物差しだけでも、流行で後悔する場面はかなり減らせます。後悔しやすいポイントは注文住宅の後悔ランキングTOP10でもまとめています。
同じ要望でも、新しい設備や間取りの流行をどこまで取り入れるかは、会社によって考え方が違います。複数社に間取りと資金計画を出してもらうと、「標準でついてくるもの」「提案される流行」「将来の交換のしやすさ」の違いが並べて見えてきます。
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流行の本体は「会話」にある
ロジャーズの研究で特に大事な発見の一つは、新しいものは広告よりも人と人の会話で広まる、ということでした。流行の中身は、物そのものより、それについて話すという会話の側にあるとも言えます。
家づくりの流行も同じです。SNSのルームツアー、知人の新居、住宅展示場での会話。流行を知ることは、今の家づくりで何が話題になっていて、何が試されているかを知ることでもあります。乗るかどうかは別として、流行を知っておくこと自体には価値があります。そのうえで、取り入れない理由を自分の言葉で説明できれば、それは流行に振り回されていない選択です。
家族で話してみたい5つのこと
- □ 設備・性能・間取り・デザインのうち、自分たちが先頭に立ちたい分野はどれか
- □ 逆に、実績が出るまで待ちたい分野はどれか
- □ 気になっている流行は、あとから戻せる場所か、戻せない場所か
- □ 「人と違う家にしたい」の基準が、多数派になっていないか
- □ 参考にしている家は、家族構成や暮らし方が自分たちに近いか
流行と家づくりのよくある質問(FAQ)
Q. 流行の間取りは、数年後に古く見えませんか?
見た目の流行は、時間がたつと古く感じやすいものです。ただ、回遊動線や大きな収納のように、暮らしの困りごとを解決するために生まれたものは、流行が去っても使い勝手は残ります。「見た目の流行」か「暮らしの工夫」かを分けて考えるのがおすすめです。
Q. 最新の設備は、採用しないほうが安全ですか?
一概には言えません。新しい設備には、使ってみないとわからない不具合のリスクがある一方、省エネや使いやすさの面で大きく良くなっていることもあります。保証や部品の供給期間、交換しやすい納まりにできるかを確認したうえで選べば、リスクは小さくできます。
Q. 人とかぶらない家にするには、どうすればいいですか?
「人とかぶらないこと」を目標にすると、かえって似た家になりやすいことがあります。家族の暮らし方、敷地の条件、持っている家具や趣味から考えていくと、結果として自然に、その家族にしかない家になります。
Q. 住宅の省エネ性能は、どこまで高めればいいですか?
2025年4月から省エネ基準への適合は義務になり、国は2030年までにZEH水準への引き上げを目指しています。これから建てる家は、少なくとも将来の基準を見すえて考えておくと安心です。どこまで上げるかは、予算と光熱費、住む年数のバランスで決めます。
まとめ|流行に「乗るか」より「どの順番に並ぶか」
- 新しいものは、5つの層を順番に通って広まる。流行に乗らない人がいるのではなく、乗る順番が違うだけ
- 先頭の人は失敗を引き受ける実験台。最後尾の人の遅れには、余裕のなさなど状況の理由があることが多い
- 「流行に乗らない」も、多数派を基準にしている限り、流行に縛られている
- 流行の位置は性格ではなく分野ごと。家づくりでは分野ごとに自分の順番を決める
- 流行は戻せる場所で楽しみ、戻せない場所は10年後も困らないかで選ぶ
流行に乗ることも、乗らないことも、それだけでは良し悪しは決まりません。大切なのは、自分がどの分野でどの順番に並んでいるのかを知り、それを自分で選んでいることです。
あなたが家づくりで先頭に立ちたい分野と、最後尾でいい分野は、それぞれ何でしょうか。その答えを家族で並べてみると、打ち合わせで迷う場面が少し減るはずです。
流行のどこまでを取り入れるかは、家族ごとに違って当然です。同じ要望で複数社に間取りと資金計画を出してもらい、取り入れたい流行と、長く使える基本の部分のバランスを比べながら選んでください。
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連載#09。良い部屋を集めても、良い家にならない理由です。

連載#03。10年後の自分と、変化に強い家の話です。

流行を見に行く前に読んでおきたい、展示場の歩き方です。


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