残価設定型住宅ローンは危険?結論から言うと「使い方」が重要です
「残価設定型住宅ローンって何?」
「住宅版の残クレって聞いたけど、本当に大丈夫?」
「国が支援しているなら安心なの?」
最近、住宅ローンを調べていると「残価設定型住宅ローン」という言葉を目にする機会が増えてきました。
車では「残価設定ローン」、いわゆる「残クレ」がすでに知られています。
そして2026年には、住宅でも残価設定型住宅ローンの普及を後押しする制度が始まりました。
住宅価格が上昇し、住宅ローンの借入額が大きくなる中で、毎月の返済負担を軽くできる可能性があることが注目されている理由です。
ただし、ここで注意したいのが、
「月々の返済額が安い=お得な住宅ローン」ではない
ということです。
私は一級建築士として住宅設計に携わっていますが、残価設定型住宅ローンを考えるときは、ローンの仕組みだけでなく、「20年後、30年後にこの家にどれだけの価値が残っているのか」まで考える必要があると思っています。
この記事では、住宅版「残クレ」とも呼ばれる残価設定型住宅ローンについて、仕組みからメリット・デメリット、将来の注意点まで一級建築士の視点で解説します。
残価設定型住宅ローンとは?
残価設定型住宅ローンを簡単に説明すると、将来の住宅価値を「残価」として設定し、その部分の返済を後ろに残すことで、毎月の返済負担を軽減する仕組みです。
例えば、分かりやすくするために、7,000万円の住宅を購入するとします。
そして20年後の住宅の残価を2,000万円と設定したとします。
| 住宅価格 | 7,000万円 |
| 20年後の残価 | 2,000万円 |
| 残価以外の部分 | 5,000万円 |
イメージとしては、将来の2,000万円を残した状態で返済を進めるため、通常の住宅ローンよりも毎月の返済額を抑えられる可能性があります。
ただし、「7,000万円の家を5,000万円で買える」という意味ではありません。
金利や契約条件、残価部分の扱いなどによって実際の返済額や総支払額は変わります。
なぜ今、残価設定型住宅ローンが注目されているのか?
大きな背景のひとつが、住宅価格の上昇です。
住宅価格が上がれば、当然ながら必要な住宅ローンも大きくなります。
「家を建てたいけれど、毎月の住宅ローンが重すぎる」
そんな世帯が増える中で、住宅の将来価値を活用して現在の返済負担を軽くするという考え方が注目されています。
住宅金融支援機構は2026年3月、民間金融機関による残価設定型住宅ローンの供給を促進するため、「特定残価設定ローン保険」を創設しました。
制度の背景には、住宅価格の上昇に伴う住宅ローンの高額化・長期化があります。
つまり、「国が残価設定型住宅ローンの普及を後押しする」という話自体は事実です。
ただし、ここで大切なのは、
「国が支援している=誰にとっても得な住宅ローン」ではない
ということです。
残価設定型住宅ローンのメリット
メリット① 毎月の返済負担を抑えられる可能性がある
最大のメリットは、月々の返済額を抑えられる可能性があることです。
住宅価格が高くなっている現在、通常の住宅ローンでは月々の返済額が大きくなってしまうケースでも、残価設定型にすることで負担を軽くできる可能性があります。
メリット② 住宅購入の選択肢が広がる
これまで「予算5,000万円では希望する家が難しい」と考えていた人でも、残価設定型住宅ローンによって購入できる住宅の選択肢が広がる可能性があります。
ただし、ここには注意が必要です。
「買える」と「無理なく買える」は同じではありません。
一番注意したいのは「予算が増えた」と錯覚すること
残価設定型住宅ローンで私が特に注意してほしいと思うのが、このポイントです。
例えば、家計から考えて5,000万円程度なら無理なく返済できる家庭があったとします。
残価設定型住宅ローンを利用すると、7,000万円の住宅でも月々の返済額を抑えられる可能性があります。
すると、
「月々これくらいなら払える。だから7,000万円の家を買おう」
となりやすい。
しかし、それは7,000万円の住宅を無理なく購入できるようになったわけではありません。
ローンの返済方法を変えることで、現在の月々の負担を抑えているだけだからです。
私は、残価設定型住宅ローンを使うとしても、「残価設定だから予算を1,000万円、2,000万円上げる」という考え方はおすすめしません。
残価設定型住宅ローンの5つの注意点
注意点① 残価は「消える借金」ではない
残価設定型住宅ローンを理解するうえで、最も重要なポイントです。
例えば7,000万円の住宅に2,000万円の残価が設定されているとします。
20年後に、その2,000万円が突然なくなるわけではありません。
契約内容に応じて、住宅の売却、一括返済、残価部分についての返済継続など、将来の対応が必要になります。
そのため、契約前に「20年後に何を選択できるのか」を必ず確認してください。
注意点② 20年後に本当にその価値が残るとは限らない
住宅の残価を考えるとき、車以上に難しいのが不動産の価値変動です。
20年後の住宅価格は、次のような要素によって変わります。
- 土地の立地
- 駅からの距離
- 人口動態
- 周辺の住宅需要
- 商業施設や学校などの環境
- 災害リスク
- 建物の維持管理状態
- 住宅性能
つまり、「20年後に2,000万円の価値がある」という前提が、すべての住宅で同じように成立するわけではありません。
注意点③ 住宅の維持管理が重要になる
残価を設定する以上、住宅の価値を維持することが重要になります。
長期優良住宅など、長期間使用することを前提とした住宅では、適切な維持管理が重要です。
住宅金融支援機構が紹介しているJTIの残価保証の仕組みでも、長期優良住宅を対象とし、適切な維持管理を条件とする考え方が示されています。
つまり、残価設定型住宅ローンを考えるなら、「建てたら終わり」ではなく、建てた後の維持管理まで含めて計画することが重要です。
注意点④ メンテナンス費用を忘れてはいけない
住宅ローンだけを見て「月15万円なら払える」と判断するのは危険です。
住宅にはローン以外にも、外壁・屋根・防水・給湯器・エアコン・水回り・内装・外構などの維持管理費がかかります。
住宅は、購入した後にもお金がかかる商品です。
注意点⑤ 土地の価値が非常に重要
私は一級建築士として、ここをかなり重視します。
残価設定型住宅ローンを検討するなら、建物だけでなく土地を見てください。
駅から近く、人口が維持され、住宅需要がある土地と、人口減少が進み住宅需要が少ない土地では、20年後の価値が大きく違う可能性があります。
家は建て替えることができますが、土地は動かせません。
建築士が考える「残価が残りやすい家」
では、どんな家が残価設定型住宅ローンと相性がいいのでしょうか。
① 長期的に使える構造
耐震性や劣化対策など、長期間使うことを前提に住宅を計画することが重要です。
② 断熱・省エネ性能
住宅性能は、暮らしやすさだけでなく、将来的な住宅価値を考えるうえでも重要な要素になります。
③ メンテナンスしやすい外装
「メンテナンス不要」ではなく、「メンテナンスしやすい」ことが重要です。
④ 特殊すぎない間取り
自分たちにとって最高の間取りでも、将来の買い手にとって使いにくい間取りになる可能性があります。
長期的な価値を考えるなら、家族構成が変わっても使いやすい、汎用性の高い間取りがおすすめです。
⑤ 立地
そして最も重要なのが土地です。
残価を意識するなら、建物以上に土地選びを重視してもいいと私は考えています。
20年後、残価設定型住宅ローンはどうなる?
残価設定型住宅ローンを検討するなら、必ず「20年後」を想像してください。
例えば、7,000万円の住宅に2,000万円の残価が設定されているとします。
将来的には、契約内容に応じて残価部分の返済や売却などの対応を考える必要があります。
重要なのは、「20年後の自分がどうするのか」を契約前に考えておくことです。
「家の価値が残価を下回ったらどうなる?」
ここは契約前に必ず確認してほしいポイントです。
例えば、設定された残価が2,000万円だったとして、20年後の実際の売却価格が1,500万円だったとします。
この場合にどうなるのかは、利用する住宅ローンの商品や契約条件によって異なります。
住宅金融支援機構の「特定残価設定ローン保険」では、一定の条件のもと、売却時の残価部分をノンリコースとする仕組みが示されています。
そのため、「残価を下回ったら必ず差額を自分で払う」と一律に考えることもできません。
逆に言えば、ここは「残価保証」「ノンリコース」「売却条件」などの契約内容を必ず確認すべき部分です。
「残クレ=危険」と決めつける必要はない
ネットでは「住宅版残クレは危険」という意見もあります。
しかし私は、
「残価設定型住宅ローンだから危険」なのではなく、「仕組みを理解せずに住宅予算を引き上げること」が危険
だと考えています。
例えば、
「月15万円なら払える」
↓
「だから7,000万円の家を買おう」
という判断です。
これは慎重になるべきです。
一方で、将来的な住み替えを想定している、土地の資産価値を重視している、住宅性能や維持管理をしっかり考えている、残価部分の条件を理解している、といった人なら、選択肢のひとつとして検討する余地があります。
私なら「残価設定だから家を大きくする」はしません
一級建築士として私が残価設定型住宅ローンを使うなら、
「月々安くなったから、もっと大きな家を建てよう」
とは考えません。
むしろ、
「同じ予算で、将来も価値を維持しやすい家をつくる」
という方向に使います。
- 耐震性能
- 断熱性能
- 窓性能
- 外壁・屋根の耐久性
- 防水性能
- メンテナンス性
- 将来も使いやすい間取り
こうした部分にお金を使うほうが、私は住宅の長期的な価値につながりやすいと考えています。
残価設定型住宅ローンを検討するときのチェックリスト
金融機関に相談するときは、最低でも次の項目を確認してください。
- 残価はいくら設定されるのか
- 残価はどのように算定されるのか
- 何年後に残価設定期間が終了するのか
- 残価部分にはどのような金利がかかるのか
- 20年後に売却した場合、残価を下回ったらどうなるのか
- ノンリコースになる条件は何か
- 住宅の維持管理に条件はあるか
- 定期点検は必要か
- 指定業者による修繕が必要か
- 修繕しなかった場合はどうなるのか
- 残価部分を一括返済できるのか
- 返済を継続して住み続けられるのか
- 売却後も住み続けられる仕組みがあるのか
- 通常の住宅ローンと比べて金利はどうか
- 総返済額はいくらになるのか
まとめ|「月々いくら?」だけで住宅ローンを選ばない
残価設定型住宅ローンは、これから住宅購入を考える人にとって、注目すべき選択肢のひとつです。
2026年3月には住宅金融支援機構が「特定残価設定ローン保険」を創設し、民間金融機関による残価設定型住宅ローンの供給を促進する仕組みが整いました。
ただし、
「国が支援している=誰でも使ったほうがいい」
ということではありません。
大切なのは、
「なぜ月々の返済額が安くなるのか?」
を理解することです。
そして、
「20年後、この家にはどれくらいの価値が残っているのか?」
まで考える。
住宅ローンを「月15万円だから払える」というだけで判断するのではなく、土地・建物・維持管理費・金利・残価・将来の住み替えまで含めて考えてください。
住宅は、車よりもはるかに長く付き合う買い物です。
だからこそ私は、
「残価設定型住宅ローンを使うかどうか」より、「そのローンを使って、どんな家を買うのか」のほうが重要
だと考えています。
月々の返済額を抑えるために家を買うのではなく、将来も価値を維持しやすい家を、無理のない資金計画で買う。
これが、残価設定型住宅ローンを利用するときの一番大切な考え方ではないでしょうか。

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